「・・・さん?」
ここは取調べを受けている罪人が1時的に入れられる牢屋。
泰輝も、何時間か前に取調べが終わり、ここに入れられていた。
そこにが会いに来た。
泰輝は壁にもたれて地面に座っていた。
『泰輝さんって・・・本当に侑歌のことが好きなんですね。』
がふわっと笑っていった。
「シスコンだろ?」
泰輝のその言葉に2人ともが笑う。
「でも、さんには感謝してますよ。
全てがわかっているあなたが、裏で手をまわしてくれる前提で、
俺は今まで侑歌に会うために行動してきました。
俺に利用されているとわかっていながら、利用されてくれましたよね?
おかげで今、俺は侑歌と出会うことができました。
あなたがいなければ、
侑歌が真選組に入隊することもできなかったでしょうし・・・」
『侑歌の目がすっごく真っ直ぐだったんで・・・
悪い人ではないと思いましたから。
偽名を名乗られたときも、
《なにか事情があるのかなー?助けてあげたいなー・・・》って思いましたし。』
「あなたが・・・」
泰輝がの顔を見ていう。
「あなたがあと何年か早く生まれていたら・・・
きっと侑歌も売られることなく、
俺がなにもしなくても黒豹族は捕まり、
こんなことにはならなかったのかな・・・
って思います。
いや、こんなこといっても仕方がないことは分かってるんですけどね。」
その泰輝の言葉には、悲しそうな表情で下を向いた。
「さん・・・」
泰輝に呼ばれ、は視線を和斗のほうに向ける。
「俺のしたこと・・・間違ってましたかね?」
泰輝の表情は真剣だった。
『間違ってたか、正しかったかなんて、
私には分からないけど・・・
私が泰輝さんの立場でも、同じことをしたと思います。』
そのの言葉を聞いて、泰輝はすこしほっとした表情になった。
カツカツカツ
が出て行ってから数分後、また誰かの足音が響く。
泰輝は、うつむいていた顔をあげる。
「・・・侑歌?」
電気はついてなくて顔は見えないが、雰囲気でわかった。
「・・・正直あたし、お兄ちゃんのこと憎んでた。」
侑歌がはっきりといった。
それを聞いて、泰輝の表情がくもる。
「だけど・・・今日わかった。
お兄ちゃんは、あたしのために仕方なく村人狩りに協力してたんだよね。
もちろんそれはいけないことだけど・・・
・・・あたしも一緒にその売られた村人たちを助けに行く。」
そういって、チャリンと音をたてながら侑歌が差し出した手には、
泰輝の牢の鍵が握られていた。
暗闇の中、窓から入る月の光を反射して、鍵が光る。
『自分が思ったことをすればいいよ。』
がお兄ちゃんの取調べが終わった後に、あたしに言った言葉。
あたしが何を考えているのか、何をしようとしているのか、
全て見透かされているみたいだった。
でも、その言葉で決心がついた。
あたしも一緒に、お兄ちゃんがした行為の責任をとる。
「でも・・・危険だぞ?」
天人たちの組織に侵入し、村人たちを助ける
―――そのことが、簡単じゃないことは分かっている。
だけど・・・
「子供のしたことの責任をとるのは親でしょ?
だから、お兄ちゃんがしたことの責任をとるのは、
保護者であるあたしなの。」
その言葉で、2人ともが笑顔になった。
こうやって話をするのは何年ぶりだろう・・・
―――12年ぶりかな?
泰輝はそう思って、ふっと笑った。
「お父さんも、お母さんも、大輔くんも・・・みんな助けに行かなきゃ。」
その侑歌の言葉に、和斗はうなずいた。
そして、佳奈は和斗の牢の鍵をあけた。
泰輝は牢の外にでて、侑歌を抱きしめた。
「ずっと会いたかった、侑歌。」
「あたしもだよ、お兄ちゃん・・・」
2人の目には涙がたまっていた。