「お兄ちゃん・・・」





2年前に兄の泰輝が行方不明になった。



山稜村に買い物を頼まれて、行ったときにちょうど村人狩りというのに遭ったそうだ。





近所の人は、お兄ちゃんはもうどこかの天人に売られてしまったと言っていた。


あたしの顔をみて、この話はやめたけど、あたしはちゃんと聞いていた。










それから、ずっとお兄ちゃんのことを心配していた。

ずっとずっと心配していた。





今どこで何をしているんだろう・・・

ちゃんと生きてるのかな・・・










でもそれは、天人がこの山間村に来るまでだった。















「キャー!」

「た、助けてくれぇ・・・」










「・・・ッ・・・」



8歳のあたしはそのとき、腰が抜けていて座り込んでしまった。


逃げることも叫ぶことも・・・何も出来なかった。










そんなとき、目の前に1人の女の天人がやってきて、

あたしの顔を見て驚いた顔をした。








「あなた・・・もしかして、イタアキの妹?」





「・・・イタアキって誰?」



あたしは必死の抵抗として、睨みながら言った。








「ああ、イタアキは偽名だったわね。

 えーっと、本名はなんて言ったかしら・・・


 春樹?快斗?和樹?・・・地球人の名前は覚えにくくてねえ・・・」





もしかしたら、と思った。


もしかしたら、この人が思い出したいのは《泰輝》なのではないのか。










「・・・泰輝?」


あたしが、そうつぶやいた瞬間、

女天人の顔が困惑した表情から、ひらめきの表情へ変わる。





「そうそう、泰輝だったわ。

 やっぱり妹なのね。顔がそっくりだものね。」





なんであんたがお兄ちゃんのことを知ってんの?

イタアキってなに?


今お兄ちゃんが何をしてるのか、あんた知ってんの?








聞きたいことは、たくさんあった。


だけど、どれものどの奥につまって、口から出てくることはなかった。









「あんたのお兄ちゃん、よく働いてくれてるわよ。

 そのおかげで、私たちは幕府からも捕まらずに

 多くの村人を売って金儲けできているわ。」



「どう、いう・・・こと?」








今の・・・お兄ちゃんがこの人たちの協力者みたいな言い方。



でも、そんなの絶対にありえない。

お兄ちゃんは人1倍正義感が強くて、

新聞で《村人狩り》のニュースを見て、捕まえたいと言っていた。





そんなお兄ちゃんが・・・村人狩りに加わるなんて・・・








そんなの絶対にありえない。















あたしの表情に、その気持ちがそのまま現れていたのだろう。



天人はあたしの顔を見て、

「あら、疑ってるみたいね。でも、残念ながら本当のことなのよ?」

と言って1枚の写真を取り出した。








「・・・ッ・・・」



そこに写っていたのはまぎれもなく、お兄ちゃんだった。





「・・・・・・」



うそ・・・こんなのって・・・





じゃあ本当にお兄ちゃんはこの人たちに協力してるの・・・?


協力して、村の人たちを天人に売ってるの・・・?


村人たちを苦しめる協力をしているの・・・?










「信じてもらえたようね。

 せっかくだから、あげるわ、その写真。


 私たちは売った人間を写真と書類と一緒に受け渡すの。


 そのために撮ったんだけど・・・イタアキは売らなかったから必要なくなったの。


 だからあげるわ。」



あたしの表情を見て、笑いながら言った。








「さあ、行きましょうか。

 あなたは・・・お兄ちゃんと違って私たちの役にたちそうもないから・・・

 
 残念だけど売られてちょうだい?」










それから、あたしは他の天人に売られた。





あたしより小さな子から20代の女の人がいて、風俗に売られていった。



あたしはまだ8歳だったから12歳になってから売られる、というので4年間、

天人に遊女としての教育をたたきこまれた。






それと同時に、あたしは自主的に筋トレをしていた。










いつかの日のために。





いつかこの組織を抜け出し、


たくさんの人々を苦しめ、あたしたちを裏切ったお兄ちゃん





―――泰輝に会う日のために。










会って・・・





会って・・・・・・










ついに、あたしが12歳のとき、遊女として売られる当日、組織を抜けることに成功した。





それからの4年間―――16歳になるまでは武術を磨いた。








その間、必死に情報集めをした結果、少ないながらも泰輝


―――イタアキの情報が入ってきた。





それは、どこかの攘夷組織に彼が協力している、というものだった。















そして、いろいろあったが無事に真選組に入ることができた。


・・・《浅真泰輝》という偽名を使って。





真選組に入ったのはあたしたちを売り飛ばした天人組織の情報を得るため・・・










それから・・・










ある目的を達成するために・・・