泰輝とイタアキマサの様子を見て、

2人がなんらかの関係を持っているということはこの場にいた全員がわかった。





『まっ、泰輝、座れよ。』



そういっては壁際のパイプ椅子を和斗にすすめる。





泰輝は素直にそれに座った。


そしては隣で壁にもたれかかる。










「イタアキマサが捕まったのか!?」



少し重たい空気のこの部屋に場違いな声が響く。


部屋に近藤が入ってきたのだった。








『本当ですよ、近藤さん。この人がイタアキです。』


「お前が・・・」



の指の先の人物を見て、思わず言葉につまる。







「・・・若いな。歳は?」

「19。」


イタアキがそっけなく答える。


「そうか・・・」


近藤さんはどこか寂しげな顔をした。















『近藤さんが来たところで・・・全てお話しましょうか。

 いいですよね?イタアキマサさん、


 それから・・・泰輝?』



そのの言葉に真選組隊士3人は頭の上に「?」が並ぶ。








「・・・は・・・もう全部知ってるんだ・・・。」


泰輝は少し驚いて言う。





『安心して、泰輝。』


そういってニッコリ微笑んだを見て、泰輝はうなずいた。





そして、イタアキと目をあわすことなく俯いた。








はイタアキに視線を移し、彼がうなずくのを見て、口を開いた。




















『えーっと、どこから話せばいいんでしょう・・・



 まず、なんで私がイタアキさんを捕まえられたか、ってところから説明します。





 イタアキさんが関わった事件というのは、どれも派手で有名です。


 ですが、それだけ派手なのに一般市民の犠牲者は1人も出ていないんです。

 きっちり天人だけが犠牲になっている・・・





 そこで私は、イタアキさんは正義感のある人だなーって思ったんです。


 で、最近イタアキさんの動きが活発になっていて、なんとなく・・・



 本当になんとなくですが・・・





 ・・・捕まえて欲しいのかな?と思ったんです。』





「真選組にかィ?」

総悟が聞く。





「うん。なんとなく。


 でも、イタアキさんは直接真選組に来るようなことはしない。

 関わっている組織が真選組に斬り込んで来るときも、

 遠くから様子を眺めているだけ。



 で、前にオツザキさんが関わっていた組織が真選組に斬り込んできたときに、

 私は遠くから双眼鏡でこっちを見ている人を見ました。


 そこはこの辺りでは屯所が1番見やすい場所でした。



 そして、その人はイタアキさんだ、って直感で思いました。


 で、今回の真選組への斬り込みも、そこで見物するんじゃないかなー?

 って思ったんで行ってみたんです。



 そしたら本当にいて・・・ちょっとびっくりしましたよ。』



が少し笑っていうと、イタアキもふっと笑う。


泰輝はあいかわらず俯いていた。





『本当に捕まって欲しかったんですね、イタアキさん


 ・・・いや、本名は浅真泰輝さんですよね。』



そのの言葉に、隊士3人は泰輝

―――――いや、正確には、いままで"浅真泰輝"だと思っていた人物の方を見た。








「泰輝・・・?どういうことだ?


 イタアキが泰輝だとしたら・・・コイツは誰だ?同姓同名?

 ・・・いや、そんなわけないよな・・・」



混乱している土方を見て泰輝―――泰輝と名乗っていた人物は口を開いた。





「そうです。俺は泰輝って名前ではありません。偽名です。」








『本名は浅真 侑歌・・・違う?』

「そうです。」



なんでもお見通しなんですね、と侑歌は笑った。

その笑顔は今まで見てきた顔とは全く違い、女の子の顔だった。





「ちょ、ちょっと待て!浅真って・・・名字が一緒!?

 それに侑歌って名前・・・もしかして・・・」


『名字が一緒なのは兄弟なので当たり前ですし、侑歌はもちろん女ですよ?』



焦る隊士3人にはさも当たり前のように言い放つ。








3人は驚きのあまり声も出ない様子で、

特に土方は「俺でも見抜けなかった・・・」とショックをうけていた。










『侑歌はチョー可愛いのに!

 なんで気づいてなかったんですかねー・・・不思議です。


 私なんて最初見た瞬間から気づいてましたよ?』



「あたしが《浅真泰輝》って名乗った瞬間から

 偽名だって疑われてましたもんね・・・


 あの時は正直とても焦ってました。」



『まー、あんときは女の子でも《泰輝》って名前なのかなー、って思ってたけど

 イタアキマサが《浅間泰輝》って名前だって気づいたら、

 あー偽名なんだ、って改めて思った。》





「どうしてイタアキマサが《浅真泰輝》って名前だってことに気づいたんでィ?」

その総悟の問いには笑って答えた。





『イタアキマサを順番並び替えて読んでみ?

 《アサマタイキ》・・・あさまたいき、浅真泰輝、になるでしょ?


 偽名ってのは本名を使って意外と簡単に作るもんなんだよ。』


「へー、全然気づかなかったぜィ。」


総悟は納得顔になる。







「だが、どうして泰輝・・・じゃなかった侑歌の名前までわかったんだ?」


今度は、土方が聞いた。





『古い事件の資料を見たからです。』

「その《古い事件の資料》ってのはなんなんだ?」








「それは俺から説明させてください。」

イタアキ―――つまり、泰輝が口を開いた。

この部屋の全員の視線が彼にそそがれる。















「俺と侑歌は12年前まで小さな山間村というところで

 両親と4人で暮らしていました。


 自分で言うのもなんですけど、当時俺は

 天才少年、IQの高い男の子ってことで新聞なんかに載ったりして、

 けっこう有名人でした。



 俺はとても豊かとは言えない生活費の足しに、

 取材費が少しでもなるのなら、と思って取材は積極的に受けていました。」





「そうか!思い出したぞ!」

いきなり近藤が言った。



「なにがですかィ?」



「《浅真泰輝》という名前、どこかで聞いたことがあると思ってたんだ。

 行方不明になったあの天才少年が・・・君だったなんて・・・」





近藤はイタアキ―――いや、泰輝を驚いた目で見つめる。








「行方不明・・・ですかィ?」


総悟の疑問に泰輝はおかまいなしに話を続けた。










「そんな当時7歳だった俺は母親に、隣村の山稜村に買出しを頼まれました・・・」




















山稜村へ買い物を頼まれるのはよくあることだった。



いつもなら侑歌と一緒に行くのだが、

その日はたまたま侑歌が熱をだしていて、泰輝1人で行っていた。








「あら、泰輝くんじゃない。今日はなにが欲しいの?」

「えーっと、トマトとジャガイモと・・・」








「キャー!」

「なんなんだ、お前ら!!」











いつも通り山稜村で野菜や果物を買っていた。


すると、天人がいきなりやってきて、村人たちを無理矢理連れて行き始めた。





泰輝は毎日新聞を読むのを日課にしていた。



だから、これが今流行っている、

天人が小さな村を襲ってその村人を労働力として他の天人に売る


―――《村人狩り》だとすぐにピンと来た。










「・・・逃げなきゃ。」



そう思って、泰輝は逃げようとしたが、目の前に女の天人が現れた。








「あなたが浅真泰輝くんね?

 頭がとってもいいらしいじゃない。


 私たちに協力しない?

 といっても、あなたに拒否権はないのだけれど。


 あなたが拒否すれば、これから山間村に行って、

 あなたの家族も友達も、みーんな売り飛ばしちゃうわよ?」





まだ子供だった泰輝でも、この天人の言っている言葉が理解できた。





背中に嫌な汗がツーッと伝う。

そして、泰輝は天人の言うとおりにするしかなかった。