『どうでした?土方さん。
あの頭脳犯についてなにか掴めましたか?』
が取調べ室からでてきた土方にきいた。
「いや。
どれだけ取り調べてもイタアキ マサという偽名を名乗っていた男
だということくらいしかわからない。
ま、実際ヤツらが知っているのはそのくらいで、
これ以上はどんだけ絞ってもなにも出てこないだろうな。
19日の祭が無事にすんだことだけでもよしとしねぇとな・・・」
土方がタバコに火をつけながらいった。
『そうっスか・・・』
「山崎が調べを続けているが、新しい情報は掴めそうにない。」
『・・・私の出番ですかね?』
がうつむいていた顔を上げる。
「・・・あぁ。頼んだぞ。」
『いえっさ。』
が笑顔でいった。
「!どこいくんでィ?」
総悟が見廻りという名の散歩をしていると、
前にが歩いていたので呼び止めた。
『あ、総悟じゃん。
それが、土方のヤローに情報収集押し付けられちゃってさ。
これから調べにいくところ。』
が振り返っていった。
「例のところにかィ?」
『うん。総悟も一緒に行く?』
「どうせ暇だし、そうするぜ。」
は『「どうせ暇だし」っつっても今仕事中でしょ。』とつぶやいた後、
2人並んで歩きだした。
しばらく歩くとある建物の前で立ち止まった。
そして、左右を軽く見たあと、2人は目をあわせてその建物の中に入っていった。
カツーン、カツーン
静かな空気の中、2人分の靴音だけが響く。
2人は地下3階まで下りてまっすぐな廊下を歩きだし、突き当たりで止まった。
がカバンからドライバーを出す。
そして、下のほうにあるコンセントのパネルを、ネジを回して取り外した。
するとパネルの下から1〜9の数字のボタンが出てきた。
カチ カチ カチ カチ
がすばやくボタンを押した。
ウィーン
自動ドアが開いて2人はその部屋の中に入っていった。
「相変わらず、すごい部屋だねィ。」
総悟が部屋をみまわして、つぶやいた。
正面には5×4mほどの大きなディスプレイ。
その前にはキーボードやいろいろなボタンがたくさんある。
この機械室は、部屋全体が大きなパソコンみたいになっている。
『私もも同感だよ。
ま、最新機能搭載のパソコンだからねー。』
が苦笑いしながらディスプレイ正面のイスに座った。
そして、キーボードをすごい勢いでたたき始めた。
大きなディスプレイに文字や画像が映ったり消えたりしている。
「ところで、なんについて調べてるんでィ?
やっぱりイタアキ マサのことかィ?」
『うん。
今までに捕まった組織にも関係してないかと思って調べてるんだけど・・・』
総悟の質問に答えている途中、の手が止まった。
「どうかしたかィ?」
総悟が不思議そうにを見た。
『・・・あった。』
「あった、って?」
『この事件、多分、
イタアキ マサが影にいる・・・』
そういって、は目の前のディスプレイを指差した。
そして総悟はそれに目を通していった。
「これは・・・」
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『土方さん、ちょっといいっスか?』
いきなり部屋のふすまが開いて、が入ってきた。
そして、俺の前に座る。
「イタアキ マサについて、なにか掴めたのか?」
『はい、まぁ。
以前に捕まった組織にイタアキ マサだと思われる頭脳犯の影があったんです。』
「以前、捕まった組織?
どんな組織なんだ?」
『まぁ一言でいうと人売りの組織っスね。』
そういっては1枚の紙を俺に渡した。
その紙にはその組織や、その組織が起こしたと思われる事件のことが書いてあった。
『その組織は天人の組織で《天下人》という名前なんですが、
黒い服とその残酷に人を狩るところから《黒豹族》とも呼ばれていました。』
「あぁ、俺も覚えてるよ。
たしか、主に小さな村を襲って、その村人を売ってたな。」
『はい。
真選組がその組織を追い始めたのが今から12年前なんですが、
その天下人が襲う村というのは真選組の盲点をつくような村ばかりで
なかなか捕まえることができなかったんです。
けっこう多くの村をパトロールしてたみたいっスけど、
見事に裏ばかりかかれてたみたいです。
そして、そのままなんの手がかりも掴めずに1年が経つと、
黒豹族から人を買っていた組織を捕まえることができたんです。
その組織を取り調べると黒豹族のリーダーだと思われる人の人相や、
部下何人かの名前が出てきたんです。
その中に《マサ》という名前もあったそうです。
そのマサというのは男だそうっスよ。』
「それがイタアキ マサだっていうことか?」
『その可能性は高いと思います。
そして今から10年前、ついに黒豹族が捕まったんです。』
「お前の助言でな。」
『全然覚えてないっスけどね。
でも・・・イタアキ マサは捕まらなかった。』
「ああ。だが黒豹族は意外とあっけなく捕まったんだったな。
なんつーか組織がバラバラでまとまりがなかった気がして、
よく今まで捕まらなかったなぁと感心したのを覚えている。」
『今まで逃げられていたのはイタアキのおかげだったのかもしれませんね。
天下人が逮捕される少し前にイタアキは組織を出て行ったそうですから。』
「なるほどな・・・」
『報告は以上です。
これからもいろいろ調べてみますんで新しいことがわかったらまた報告に来ます。
では、失礼します。』
「ご苦労だったな。」
俺のその言葉には会釈をして部屋を出て行った。
のおかげで新しくいろんなことがわかった。
10年前のあの事件・・・
真選組が必死になって天下人を探していたとき、
当時5歳だったの一言で事件が片付いた。
が今度狙われるのはここだ、と予想した村が見事に当たった。
もし、が当時もっと年がいってたら・・・
イタアキ マサを捕まえられていたかもしれないな。
イタアキ マサ、お前がかなりの頭の切れる天才だということは知っている。
だが、こっちの天才も黙っちゃいないぞ。
10年前は若すぎたためにが負けてしまったが、
今回はどうなるか・・・
見物だな。
土方は誰もいない部屋でひとり、楽しそうに笑った。