『失礼しまーす。』
が中に入ると、近藤のほかに土方もいた。
『あ、土方さんもいたんスか。』
「おぉ、。なにか用か?」
「んだよ、その言い方は。俺がいちゃ悪いかよ。」
『いえ、めっそうもございません。
ヒジカタサンガジャマダナンテ、コレッポッチモ、オモッテマセン。』
はそう言いながら2人の近くまで行き、あぐらをかいて座った。
「最後は完全棒読みじゃねぇか。
自爆してっぞ。」
『まぁ、そんなことはどうでもよくって。
近藤さんに話があるんスよ。』
土方に向けていた視線を、近藤に向けた。
表情もさっきまでとは一転して、真剣な顔つきに変わる。
『入隊希望者の面接をお願いします。』
「おい、ちょっと待て。」
土方がの言葉に反応して口をはさんだ。
「入隊希望者って・・・
まさかもう屯所の中に入れたのか?」
『はい。』
はあたかも『当たり前じゃん。』という顔で答える。
「てめぇ、ふざけんな!
あれほど身元のわからないヤツを屯所に入れるなと言っただろ!」
『そんなこと聞いてないですぜィ。
土方の妄想じゃないですかィ?』
はなるべく、さっきの総悟の顔や声を真似ていった。
「それはどう考えても総悟が言ったんだろ。
しかも微妙に似てるじゃねーか・・・
ってんなことはどうでもいいんだよ!
入隊希望者を入れたのも総悟か?」
『いえ。私です。』
「まぁトシ、そのくらいにしとけ。
で?そいつは今どこにいるんだ?」
近藤が、まだなにか言おうとしていた土方をおさえていった。
はその質問に、無言で入口のふすまを指差す。
「ったく。
もしそいつがスパイだったらどうすんだよ。」
土方がため息をつきながら、あきれたように言う。
『それは大丈夫です。』
は自信たっぷりで言った。
「ほぅ。そんなに自信たっぷりだということは、なにか確かな根拠でもあるのか?」
『ないっスよ。』
は『それがなにか?』という表情で土方を見る。
「お前なぁ・・・」
「、」
完全にあきれている土方の横で、近藤がを呼んだ。
『なんスか?近藤さん。』
「冗談はそれくらいにしといてやれ。
がスパイかもしれないやつを屯所内に入れるわけないだろう。
それに今の顔は『根拠はあるけど、めんどくさいから言わなくていいや。』って顔だ。」
『あ、バレました?』
は『てへぺろ〜』と言いながら、近藤に向かって苦笑いをする。
「長い付き合いだからな。」
近藤も笑ってかえした。
「ったく。根拠があんなら最初っから言えっての。
で?そいつがスパイじゃねぇっていう根拠は?」
土方はますますあきれた顔で、と近藤を見ながら聞いた。
『しょうがないっスね〜。
1回しかいわないんでよく聞いてて下さい。
スパイはたぶん真選組がスパイに警戒していることを知っていると思うんです。
もしも泰輝、あ、入隊希望者のことですけど、
そいつがスパイだったら入隊希望者として真選組に潜入しようと思いますか?
俺たちは当然、警戒しているわけだから屯所内に入れるわけないのに。
それに、少し見ていたけど泰輝は門番がなにをいっても帰ろうとしなくて
門番と軽く言い争いになってたんスよ。』
「そんなに執着心を持っているんだから、あやしいんじゃないのか?」
説明を聞いてふと疑問に思ったのか近藤が聞く。
『スパイってのは目立つことをしてはいけないんです。
入隊希望者ってのは1番あやしいですから
屯所内に入れなくても身元を調べられる危険がある。
土方さんも屯所に来た身元がわからない人間を退をつかって調べてますよね?』
の問いに土方が無言でうなずく。
『ということはっスよ。
スパイだったら顔を覚えられたくないわけですよ。
だから門番と言い争いになるほどしつこくないはず。
生意気な入隊希望者なんてのは門番の記憶によーく残りますから。
それが第1の根拠です。』
は言い終った後、2人の顔を順番に見た。
「なるほどなぁ。」
近藤は感心したように言う。
『次に第2の根拠っス。
さっき泰輝の実力をはかるために、1戦交えたんスよ。
そのときに私、手加減されたんです。
もし泰輝がスパイだったら、当然、真選組のことを少しは調べているわけですよね。
ということは、私が副隊長だということくらいは知っているでしょう。
当然、1戦まじえたときも手加減してたら負ける、
ということはわかっていたわけで、泰輝はスパイではないってことです。』
「スパイではないと思わせるためにわざと手加減した、ってのは考えられないのか?」
土方がするどい視線をに向ける。
『そうっスね。
でも、私が自分のことをスパイだと気づいてて、
わざと気付いてないふりをしてるのかも知れない、
実力をためすと見せかけて斬られるかもしれない、
とヒヤヒヤして手加減する余裕なんてないでしょう。
それに、汗もでてなかったし表情も落ち着いてました。
裏をかいてわざと手加減しているんだったらそんなことは
よっぽど精神面が強くない限り、難しいです。』
「たしかに、その"泰輝"ってやつがスパイの可能性は低いってことはわかった。
だが、0%ではないだろう。」
土方はいまだに険しい顔をしている。
『そうですね。たしかに0%ではないです。
でも・・・
泰輝は違うと思うんです。』
「なぜだ?」
『勘・・・ですかね?』
「勘?」
土方が怪訝そうにを見つめる。
『はい。』
はそう答えたあと、『それから・・・』と小さな声で続けた。
『目、ですかね。』
「目?」
予想外の言葉に土方が首をかしげる。
『はい。』
「目がどうかしたのか?」
『んー・・・会えばわかると思います。』
「よーし、わかった。
で?その泰輝ってやつと1戦まじえたんだろ?
腕はどうだったんだ?」
近藤が、疑わしそうな顔でを見ている土方を横目に、笑顔でいった。
『悪くないっスよ。』
がニコっと笑っていった。
「そうか。
じゃあ、早速これから面接をしよう。」
『ありがとうございます。
いいっスよね?土方さんも。』
「あぁ。ただし・・・条件がある。」
土方はいまだ険しい顔をしていた。
『なんスか?』
「そいつの面接に、俺も同席することだ。」
その言葉には『いいっスよ〜。』といって、泰輝を呼びに行くため立ちあがった。
「。」
入り口のふすまにあと1歩で手が届く、というところで土方がを呼び止めた。
『なんスか?』
は体を前に向けたまま、顔だけ土方のほうへ向ける。
「もしその"泰輝"ってやつがスパイで、
お前より頭がよくて、お前の推理の全て裏をいってたらどうすんだ?」
厳しい顔つきでに問いかける。
その言葉を聞き終わると、は前に向き直った。
「それでもし真選組に不名誉なことが起こったら、そんときは・・・
切腹でもなんでもしますよ。」
それを言ったときのの表情は、前をむいていてわからなかったが、
少し声が笑っているように思えた。
そして、それを言い終わるとすぐに部屋を出て行った。
「近藤さん。」
の出て行った部屋で少しの沈黙の後、土方が口火をきる。
「なんだ?トシ。」
「なんではそこまで"泰輝"ってやつにこだわってんだ?」
「さぁな。
だが会ってみればわかるだろう。」
土方の質問に近藤は笑顔でいった。
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が話をつけるために局長室に入っていったあとすぐ、総悟が和之に言った。
「どうしてはそんなに泰輝にこだわってんのかねィ?。」
「俺にこだわってる?」
泰輝は、不思議そうな顔で総悟を見た。
「そうでィ。
たしかには普段から入隊希望者が来たら屯所内に入れまさァ。
けど・・・近藤さんがいないときに入れたのは今回が初めてでさァ。」
「え?」
泰輝は総悟の言葉に、驚きの声をあげる。
「普通の入隊希望者には、門番を説得させて屯所内に入れて、
すぐ近藤さんのところに連れて行くんでィ。
泰輝みたいに近藤さんが不在のときに中に入れたのも初めてだし、
1戦交えたのも初めてでさァ。」
「そうなんですか・・・」
2人はそれぞれ不思議そうな顔で、少しのあいだ考えこんでいた。