「そんなことをいわれてもなぁ・・・」
「どうしても真選組に入りたいんです!」
「無理なものは無理だ。」
『・・・うるさいなぁ。』
屯所の屋根の上で昼寝をしていたの耳に、誰かの声が聞こえてきた。
「悪いけど、今は新しい隊士を募集していないんだ。」
「試験だけでもしていただけませんか?」
は上半身を起こし、自分を起こした声の主を探した。
すると、屯所の門番と1人の若者がなにかを言い合っているのが見えた。
若者は1本の刀を腰に差している。
『入隊希望・・・?』
は首をかしげながら、そうつぶやく。
そして屋根からストンと飛び降り、屯所の正門の方に向かって歩きだした。
『どうかしたの?』
「さん!聞いてくださいよ〜。
こいつ、真選組に入りたいっていうんです。」
「何回断ってもあきらめなくって・・・
さんからも何か言ってください。」
いきなり目の前に現れて自分に視線をむけるのは、可愛らしい少女だった。
この子も真選組・・・?
しかも、門番が敬語を使っているってことは
門番よりも上司なのか・・・?
泰輝(たいき)がそんなことを考えていると、目の前にいた少女が口を開いた。
『ま、中入んなよ。』
「え!?」
「さん!?」
の発言に、門番たちが驚きの声をあげる。
『いいの、いいの。責任なら私がとるから。
あんま細かいこと気にしてるとハゲっぞ〜♪
・・・いや、もう手遅れか。』
は門番の「「え゛!?」」という声をを背中に受けながら、
泰輝にニコリと笑って「ついておいで」と言う。
そしてそのまま門をくぐって、中に進んでいく。
泰輝はすれ違うときに門番の男たちに会釈をし、目の前を歩く少女についていった。
門番が見えなくなったとたん、はいきなり立ち止まって、泰輝のほうを振り返った。
『ごめんね。
最近、真選組にスパイを送ったっていう攘夷の噂が入ったから、
今は入隊希望が来ても絶対に門をくぐらせるなって、
くそマヨラー副長に言われてたからさ。』
「そうだったんですか。
でも、俺のことはいいんですか?スパイかもしれないですよ?」
『大丈夫、大丈夫!
その人がスパイかどうかを見極められるだけの目は、持ってるつもりだから。
それにあんな副長になんか言われたってどーってことないし。』
「・・・そうなんですか。」
『で、名前は?』
はまた前を向いて歩きはじめた。
「浅真 泰輝(あさま たいき)です。」
『・・・それ、本名?』
「はい。」
『そっかー・・・うん、カッコイイ名前だね。』
そう言いながら、はチラリと後ろを振り返ったが、すぐに前をむいた。
「ありがとうございます。」
『いくつ?』
「18です。」
『じゃ、私の3つ上か〜。ってことは、総悟と同い年だね。』
そう話しながら、はある建物の前で立ち止まり、扉をあけた。
靴をぬぎ、まっすぐな廊下をスタスタと歩いていく。
泰輝も質問に答えながら、についていった。
そして、ある部屋の前でが立ち止まり、ふすまをあけた。
どうせヒマだし、泰輝の実力を見とこうかな〜
・・・ん?今って仕事中かな?
ま、いいや。
は部屋の中に入って行き、奥の壁にかけてある木刀の中から2本を手に取った。
『道場になってるとは思わなかったでしょ?』
ふすまをあけた瞬間から、部屋をキョロキョロ見まわしていた泰輝に言った。
「はい。」
『じゃ、とりあえず木刀で。その刀はそのへん置いといて。
相手は私ね。』
手に持っていた木刀のうち1本を泰輝に向かって投げる。
彼が受け取ったのを見ると、は部屋の中央に立ち、木刀をかまえた。
それを見た泰輝も、刀をかまえ、顔つきも引き締まる。
隙のないかまえだけど、どっかのカタにハマったかまえではないなぁ。
・・・ということは我流?
よし、こっちから仕掛けてみよっか。
が、泰輝の正面からまっすぐ刀をふりおろす。
泰輝はその攻撃を流して、の横腹に向けて刀をふる。
はすばやく1歩さがり、
体勢を低くしてから1歩前に出て、
頭の上を相手の刀が通った瞬間に、
下から泰輝のお腹にあたる直前で刀をとめた。
「・・・負けました。」
『まだまだだねv』
は笑顔でそういって、刀を下ろした。
「強いですね。」
『まー、だてに副長やってないよ。
あ、副長っていっても、副隊長の副長ねv
でも泰輝・・・』
「なんですか?」
『相手が年下のチョーめちゃめちゃ可愛い女の子、
つまり私のことだけど、←
そうだからって切るのをためらっちゃダメだよ。
くるんなら思いっきりこなきゃ!
あれが木刀じゃなくて本当の戦いだったら・・・泰輝、死んじゃってるよ?』
笑顔でそう言ってから、彼の木刀をとりあげ、もとあった場所に戻す。
『ま、こんだけの腕があったらたぶん大丈夫だと思うよ。
私も近藤さんに推薦しとくし。』
「本当ですか!?ありがとうございます!」
『いえいえv
あともう少ししたら近藤さんも帰ってくると思うし・・・』
「〜!
あ、いた。」
2人が話をしていると、いきなりふすまが開いて1人の少年が入ってきた。
『あっ、総悟!』
「いつもの場所で昼寝してんのかと思ったらいなかったから探したぜィ。」
『ごめんごめん。
泰輝が入隊したいっていうから、ちょっとテストしてた。』
「そうだったのかィ。
でも、土方のヤローがしばらくは屯所内に知らないやつを入れるな
っていってなかったかィ?」
『そんなの、
《そうだったんですか?初耳です。
次からは気をつけまーす。》
って言っとけば大丈夫だし。」
「いや、そんな甘いのじゃダメだぜィ。せめて
《そんなこと聞いてないですぜィ。
土方の妄想じゃないですかィ?》
くらい言っておかねぇと。」
『なるほど!さすが師匠!』
「それほどでもないぜィ。」
と総悟がそんな話をしていると、外が少し騒がしくなってきた。
『あ、近藤さんが帰って来たかな?』
「そうみたいだねィ。行くかィ?」
『うん!
泰輝、これから近藤さんに会うからね。
まー、てきとーに受け答えしとけばいいからv』
「はい。」
そして、3人は近藤に会うため、局長室へ向かった。
途中、すれ違う隊士たちに泰輝は白い目を向けられたが、
隣を総悟とが歩いていたため、咎められることはなかった。
は《局長室》と書かれたふすまの前に立ち止まり、泰輝に向かってにっこり笑い、
『じゃ、話つけてくるね。総悟と一緒に待ってて。』
といって中へ入っていった。