薮井先輩は何も悪いことなんてしてないのに・・・



あんなにいじめられても、毎日毎日大変なマネージャー業やってるのに・・・








なんで・・・・・・?
















079 絶対、いや。















『薮井先輩・・・・・・』


「―――ッ。」





私の口から小さな声で彼女の名前が無意識にこぼれたと同時に、彼女は勢い良く立ち上がったかと思うと

うつむいたまま私の目の前を横切り、真田くんの横を駆け抜け教室から出ていった。













薮井先輩・・・・・・








遠くなっていく足音を聞きながら、ふと先輩が近くを通ったときに違和感を感じた足に視線を落とした。



だらしなく伸ばした私の足。

先ほどの衝撃でずれた靴下によってあらわになったそのふくらはぎには、小さな水滴が―――――・・・・・・










―――――・・・・・・涙?








薮井先輩・・・・・・















泣いてたんだ。


どんなにいじめられても泣かなかったのに。





真田くんの、あの言葉で・・・・・・










《テニス部を辞めてください。》

《テニス部に、もう関わらないでください。》













薮井先輩・・・・・・













『ちょ、ちょっと!真田くん!』





足音が完全に聞こえなくなったあと、はっと我に返って

彼を問い詰めようと、視線をその小さな水滴から彼に向けた。





『薮井先輩はなにも悪いことなんてしてない・・・』


「貴様は黙っていろ。」


『っ・・・・・・』





そ、そうだったー、私いま、(真田くんの頭の中で)悪いやつなんだったー・・・・・・










「部外者の貴様から言われることなどなにもない。

 貴様の目論見にはとうに気づいている。」


『もくろみ・・・?』



「たわけ!とぼけるな!」


『・・・・・・はぁ?』





た、"たわけ"って・・・・・・あなたいつの時代の人だよ。

ていうか、なに言ってんの?"もくろみ"?


"もくろみ"って目論見って書くんだねー、へぇー・・・・・・





んで、私の"もくろみ"ってなに?








『"もくろみ"・・・?』


「あくまでしらを切る気か・・・まあいい。

 とにかく貴様は、今後一切テニス部に関わるな。」


『へ・・・?』



テニス部と・・・・・・?なんで?





「わかったな。」



言われている言葉が理解できずきょとんとしていると、冷たく威圧するような声で念を押される。





『・・・・・・・・・』





いやいやいや、なんでって聞いてるんですけど・・・

なーんか、全然会話が成り立たないし。


あー、今は真田くんには何を言っても無駄な気がする・・・





でも、ここで彼のオーラに負けてうなずいちゃったら、テニス部のみんな

―――――ブン太くん、ジャッカル、幸村くん、それから、におーやさんに柳くんとも

せっかく仲良くなったのに、もう話せなくなるなんて・・・・・・








そんなの絶対いや。





・・・・・・こーゆーときはぁー










『いや、です。』





拒絶一択。








「なっ・・・・・・」










おー、驚いてる驚いてる。


まぁさすがの真田くんも、まさかあそこで拒否されるとは思わなかったかー。





でもさ、でもさ。

せっかくできた友達といきなり仲良くするなー、なんて言われて


素直にうなずくわけないじゃん。













あー、なんかもうめんどくさくなってきちゃったなー。疲れてきたし。←



ていうか薮井先輩と安瀬先輩のけんか(いじめ?)ももう終わったし、もうこれ以上ここにいる意味なくね?

腕痛いし。帰りたい。





・・・・・・うん、帰ろ。










よっこいしょ、と痛む左腕を使わないようにゆっくり立って、

真田くんとずっと無言でいる安瀬先輩の探るような視線を受けながら、ぱたぱたとスカートについたほこりを払う。



そしてゆっくりと教室の出口のほうへ歩き出した。








扉へ向かう途中に真田くんが立っているため、必然的に彼のほうへ歩いていくことになる。





彼は近づいてくる私をじっと見つめてくる。


その視線をひしひしと感じながら、私は扉だけをまっすぐ見つめていた。













ここで真田くんと睨み合いー、みたいになったら

私と真田くんがけんかするー、みたいな雰囲気になっちゃうじゃん?



んなの、やだよ。





だって真田くんのこと、嫌いじゃないもん。面白いし。















「もう一度言う。テニス部とは今後一切関わるな。」





すれ違う瞬間、相変わらずの威圧感を含んだ声が降ってきた。








身長差があるため、ちらっと横を見ただけでは彼の表情は見えなかったが

声から想像できるものは、決して穏やかではないことはわかる。



・・・・・・ま、彼が穏やかな顔することなんてないと思うけどね。←













一瞬止まりかけた足を前に踏み出し





扉の前まできて、振り返ることなく言った。













『何度でも言うけど。絶対いや。』










彼に負けない、きっぱりとした口調で。
















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ひと段落したよーな、してないよーな・・・