ガンッ










―――――カランカラン















足元に、接続部分がはずれ、ばらばらになったリコーダーが転がる。










目の前に立つ彼女は驚きで目を丸くし、また背後からは、か細い声で「な、んで・・・・・・?」と聞こえる。













私は、座り込んでいる薮井先輩をかばうように、安瀬先輩と向かい合うようにして立っていた。
















077 いや、ほんとの修羅場はこっち。















安瀬先輩がリコーダーを振り下ろす瞬間、私は素早く彼女たちの間にすべりこみ

彼女の右腕を止めるために、その手を左手で掴んだ。



その拍子にリコーダーが彼女の手から放たれ、勢いそのままに私の左腕に直撃していた。













ズキッ








左腕に走る衝撃に、思わず反対の手で痛む部分を押さえる。













―――――げ、またやっちまった・・・





いや、落ち着け、落ち着け。



そんなに痛く・・・・・・な・・・い・・・・・・・・・こともないけど。←

でも、この程度ならすぐに痛みはひくはず(きっと、たぶん、おそらく・・・だといいな。←)だし、

病院いくほどでもないでしょ!きっと、たぶ(以下略)




















「・・・・・・あんた、なにやってんの?」





軽く自分の世界に入ってしまっていた私は、目の前に立つ彼女の放つ冷たく低い声で現実世界に戻された。










いけねー、いまそんなこと考えてる状況じゃなかったよ。


いや、でもこんなこと考えてる時点で、私まだ余裕だな!←













『暴力は、やっぱよくないですよ。ここで薮井先輩を傷つけても、あなたの思う通りになんてならないです。』



私の手を振り払い、鋭い眼光を向けてくる安瀬先輩をまっすぐに見つめ返す。








「薮井がマネージャーを辞めて、テニス部と関わらなくなればいいの。そのためだったら、私はどんな手でも使うわ。

 部外者のあなたは黙ってて。」



「私はなにをされても、マネージャーはやめない!」





今までずっと床に座り込んでいた薮井先輩が突然立ち上がって、私の前に出て安瀬先輩をキッとにらんだ。








「どこまでも私の邪魔をするって言うのね・・・・・・いいわ。

 もうみんなの前に立てないくらいボロボロにしてあげる・・・!」





そう言い終わった瞬間、安瀬先輩は薮井先輩の胸倉を掴んで押し倒した。



薮井先輩はとっさのことに反応できず、机をなぎ倒しながらそのまま倒れて、

安瀬先輩が胸倉を掴んだまま馬乗りになっている状態。



薮井先輩は幸い、頭を手でかばいながら倒れたため頭を打つことは免れたが、

背中は床に強打したらしく、顔を痛みでゆがませている。










「痛っ・・・・・・」


「あんたがマネージャーを辞めるって言うまで、もっと痛い思いをすることになるわよ・・・」





『ちょ、安瀬先輩!止めてくださいよ!』





突然のことに反応が遅れてしまったが、私は急いで2人のところへ駆け寄り

薮井先輩の胸倉を掴んでいる安瀬先輩の手をなんとか離させようとするが、

彼女の細い腕からは想像できないような強い力で掴んでいるため、なかなか離させることができない。








「あんた、なんなのよ!邪魔しないで!あんたも私の邪魔ばっかりして・・・

 突然現れたと思ったら、テニス部の1年だけじゃなく先輩にまで簡単に取り入って!

 私が今の地位を築くのに、どれだけの時間と苦労を費やしたと思ってんの!?」





安瀬先輩の鋭く冷たい視線は、私に向けられ








薮井先輩の胸倉を掴んでいた手が突然彼女から離れ、私に向かって伸びてきた。










『え、ちょ―――・・・・・・』



「生意気なのよ、あんた!」








伸びてきた手に反応して、すぐさま後ろに下がる。





幸い中腰の状態だったため、すぐに立ち上がることができ、床に転倒することはなかった。








が、押し倒そうと胸倉を掴んで飛び掛ってきた彼女の勢いには勝てず、

勢い良く机にもたれかかったため、背中の下辺りを強打した。





そんな私にはおかまいなしに、彼女は私の胸倉を掴んだまま、キッと睨みつける。















『・・・な、にするんですか!』


「あんたは邪魔なの。消えて・・・・・・?」










そして、右手をパーのまま大きく振りかぶって―――――




















―――――あぁ、ビンタされる・・・




















って、ここで大人しくビンタされるちゃんではないはずだ!←








予想される痛みに耐えようと、ぎゅっとつむっていた目をすぐに開いた。





今まで両手で掴まれていた胸倉は、右手が離れているため、いまは左手だけになっている。










―――――今なら思いっきり力を入れれば離れられる!















が、しかーし!ここで大きな問題が発生。





さっきのリコーダー事件で左腕を痛めちゃって、満足に力が入る状態ではない。













どうする、どうする、どうする・・・?



もう、いっそ大人しく殴られるか・・・?








いや、そんなの絶対嫌だーーーーーっ!















私は右手ですばやく、いまもたれかかっている背後の机の位置を確認し、

小さく後ろに飛び上がって、その机に軽く乗った。



そして、スリッパ(うちの学校の上履きはスリッパなのです。あ、いまこんなのどうでもいいって?)を脱ぎ、

後ずさりした私を追うように向かってくる安瀬先輩の肩を、


















―――――思いっきり蹴った。




















ガタガタガタッ










予想外の反撃に安瀬先輩は対応できず、後ろによろめき、少し離れた机にもたれかかりながら床にしりもちをついた。















―――――あ、ちょっと強く蹴りすぎちゃったかな。



でも、蹴るときちゃんとスリッパ脱いだから許してにゃんv←















「あ、あんた・・・・・・」





安瀬先輩が机にもたれて座り込んだまま、私を下からキッと睨みつける。








その気迫に負けて思わず謝りそうになったが、《いや、先に手ぇ出してきたのそっちだから!》と思いなおして

こっちも負けじと睨み返した。

























バタンッ















安瀬先輩が、またなにかを言おうと口を開いた瞬間、




















音楽室の重い扉が突然、開いた。
















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話が全然進まない・・・