―――――あ。
「どうしたの、さん?」
長かった今日1日の授業も終わり、荷物をかばんに詰めていると(ほぼ置き勉だから教科書はゼロ。←)
筆箱がないことに気づいて、思わず声がもれる。
それが聞こえたのか、幸村くんが声をかけてきた。
『さっき音楽室に筆箱忘れてきちゃったみたいで・・・』
「はは、やっぱりさんはどこか抜けてるよね。」
『うー、耳が痛いです、はい・・・まぁ、とりあえず取りに行ってくる!』
「俺は部活に行くよ。じゃあね、また明日。」
『うん!部活頑張ってね〜v』
075 第二音楽室。
あー、やっと音楽室ついた・・・・・・
教室で幸村くんと別れてから30分。
やっとお目当ての第二音楽室の前に到着した。
あ、迷子になってたわけじゃないからね?
いくら何でも誰でも私でも、もう7月だからね。
授業でいく教室(しかもさっきまでいた教室)くらい1人で行けます・・・・・・たぶん。←
今回こんなに時間かかった理由は宇佐美孝裕、いや、うざみばかひろのせいだ!
途中で出会ったあいつに、職員室までいろいろ運ぶのを手伝わされて・・・終わったのがついさっき。
早く筆箱とって帰ろ・・・
ドアを開けようと伸ばした手が、中から聞こえた音によって自然と止まった。
「いい加減、早く辞めなさいよ!邪魔だって、何回言ったらわかんの!?」
女子生徒の感情的な甲高い声に続いて、ガタガタ、ガシャンという机のぶつかり合うような音。
―――――この声、もしかして・・・
聞き覚えのあるこの声は、おそらく安瀬先輩だろう。
となると、一緒にいるのは・・・―――――薮井先輩?
部屋の中では、安瀬先輩がまだ何かを言っているが、
音楽室の防音の分厚い扉のせいで何を言っているのかは聞き取れなかった。
どうして、こうも私はいじめの現場に来てしまうんだろうか・・・と自然と深い溜息をついたが、
そんなことをしても現状は変わらないので、筆箱は明日の朝、取りに来ることにしてさっさと帰ろうとした
―――――ら、隣の第二音楽準備室のドアが開き、1人の女子生徒が出てきた。
ドアの開く音に反応して視線をそちらに向けると、中から出てきた人物と自然と目が合う。
ぱっちりした瞳に、くるりと上を向いたまつげ、上品で可愛らしい顔立ちに、ふわふわとした巻き毛は、まるでお人形さんみたい。
―――――うわ、めっちゃ美人・・・
「あなたは・・・」
『・・・・・?』
彼女は、私を見て目を見開いたが、すぐに目をそらした。
しかし、それも一瞬のことで、私のことをじっとまっすぐ見つめてきた。
「中の声、お聞きになりました?」
『え?あ、あぁ・・・・・・はい。』
話しかけられると思っていなかったため、思わず返答がしどろもどろになってしまう。
「どうやら、どなたかが中でけんかをなさっているようなのです。
なんとか止めなくては、と思ったのですが、わたくしにはどうすることもできなくて・・・
いま先生がたを呼びに行くところだったのです。」
『あ、そうなんですか・・・』
上品な声としゃべり方に圧倒されながらも、同じ状況に置かれた人を見ると安心するのが人間というもので。
自然と、目の前の彼女に対して勝手に親近感を覚えていた。
「中からさっきとても大きな音がしましたでしょ?
ですので、早く止めなくてはと思って・・・
わたくしは先生を呼んできますので、こちらをよろしくお願いいたします。」
『え、あぁ、はい・・・』
なにをよろしくお願いされたんだろ・・・?
と思いながら、決して速くはないが懸命に走っていく彼女の後ろ姿をぼーっと見つめていた。
その彼女が、廊下の曲がり角を曲がる直前、
目の前のドアの向こうでガッシャーーーンととりわけ大きな音がした。
―――――今の音、さすがにやばくない・・・?
私は、《これ以上やっかいごとに巻き込まれるなんていやだ!やめよーよ!》という心の叫びに必死でふたをして
意を決して目の前の第二音楽室の扉を開いた。
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さて、中には―――・・・・・・?