どいつもこいつも、ほんとうざったい。

どいつもこいつも、ほんと使えない。



ほんと、どいつもこいつも―――――・・・・・・















075.5 思い通り。by城乃澤
















小走りで廊下を進み、階段を駆け下りる。



目指す先は、第一理科実験室―――――テニス部がミーティングをしている部屋。








早く、早く―――――早く知らせなきゃ。





急がなきゃ―――・・・










急がなきゃ、いじめが終わっちゃうでしょう?




















せっかく"薮井"が"安瀬"をいじめてるっていう嘘の噂を流してあげたのに

全然、薮井は辞めさせられる気配がないじゃない。



薮井が辞めれば、あとは安瀬だけ―――・・・・・・そう考えてたんだけど。

噂程度で動く人たちじゃないわよね。





まぁ、いいわ。それも予想通りよ。



そこに、今の音楽室に連れてって、現場を見せれば―――・・・・・・

どうなるかしら、ねぇ?




















せっかく安瀬と薮井に音楽室に来るようにって手紙を届けさせて

思ったとおり、私達の作った手紙を読んだ安瀬が薮井をぶん殴ってるって言うのに


目撃者が私だけってのも、寂しいでしょう?





だから―――――ねぇ、みんな。見てよ?















理科室のドアの前に立つと、中でざわざわ話している声が聞こえた。



まだミーティングは始まってないみたいね。

始まっちゃってると、さすがに入りにくかったから助かったわ。



ま、マネージャーが来てないのに始めない、か。











「マネージャーたち、おっせーなぁー。」

「確かに。なにやってんだろーな?」

「さぁな?あの2人、仲良さそーに見えて、裏では仲悪いらしいからなー。」

「あ、やっぱりその噂、まじなわけ?」

「薮井が安瀬いじめてるって噂だろ?」

「でも俺、薮井先輩の足にあざがいっぱいあるの見ちゃったんですけどー。」

「薮井に?」

「はい。」

「返り討ちにでもあったんじゃねーの?あぁ、女って怖っ・・・・・・」









中から聞こえる、テニス部員たちの声に思わず口元が緩んだ。





フフ、思い通りだわ。

みんな噂のことは知ってるみたいね。





そして、人は一度疑ってしまうと、どんな些細なことも関連付けて考えてしまうものなのよね。

ほーんと、みんな、私の思い通り。











「それよりさー、ちゃんはマネージャーしてくれないのかなー。」





いよいよ、と思ってドアに伸ばした手が、ドアの向こうから聞こえてきた"ある女の名前"によって止まった。



・・・・・・"ちゃん"?











「ほんとだよなー。俺、ちゃんがマネやってくれたら、もっと頑張れるのにさー。」

「俺も俺もー。疲れなんか吹き飛んじゃうもんなー。」

「あはは、お前ら単純だなー。」

「そういうお前もだろー?・・・・・・」






"ちゃん"ってのは・・・・・・さっき音楽室の前にいた、あの女のことよね。



とっさに会ったから、先生を呼びに行かせないためにその場に残してきたけど。

そう言えばあの女、最後にちらっと見たときに、音楽室に入っていってたような・・・・・・








もう少しで・・・・・・もう少しで、マネージャーたちを消せるってときに突然現れて

テニス部たちと仲良くしてるっていう、あの忌々しい1年のガキ。





トイレに閉じ込めて水ぶっかけたくらいじゃ、やっぱ足りなかったわね。








出てきた芽は、早めに踏み潰しておかないと―――・・・・・・















ガラガラガラッ―――――













突然、目の前にあった白い扉が開いて、今度は黒い壁が目の前を塞いだ。










「む?・・・・・・お前は誰だ?テニス部に何か用か?」





頭上で聞こえた声に反応して顔をゆっくり上げると、帽子をかぶった仏頂面の男子生徒が私を見下ろしていた。








この子は確か・・・・・・1年生の真田くんね。


ちょっと老けてるけど、近くで見ると顔立ちは悪くないわね。

それに、1年でレギュラーだっていうし。将来有望ね。

性格も、"超"がつくほどの真面目だっていうし。

派手な女関係を持っている部員達の中でも特に硬派で、女関係には疎いのよねー





・・・・・・あ、いいこと考え付いちゃったv










「っ、助けてッ!」

「っ!?」



突然泣き出して真田くんの胸に飛び込んだ私は、なにごとかとざわつく教室内のテニス部員達の視線を感じていた。





よし、みんな私のことを見てるわね・・・



「お願いっ、助けてぇ・・・。」

「・・・・・・っ///」





涙で潤んだ瞳に上目遣いもあわせると、硬派な真田くんもさすがに赤くなっていた。

フフ、うぶで可愛い子。








「ど、どうかしたのか?///」



「いま第二音楽室の前を通ってきたんだけど、中でものすごく大きな音がして・・・

 気になってのぞいて見たら、女の子が―――たぶん1年生だと思うんだけど

 その子がテニス部のマネージャーの・・・たしか薮井さん?を突き飛ばしてて・・・

 その薮井さんは、安瀬さん、だったかな?その子と、取っ組み合いになってるし、

 それを1年生の女の子が笑いながら見てるし・・・

 私、怖くなっちゃって・・・・・・とりあえず、テニス部のみんなに知らせなきゃって・・・」





目の前の真田くんは、私の話した作り話を聞いて、目をまん丸にしているし、

教室のあちこちで、《まじかよ・・・》《やばくね・・・?》という声が聞こえる。


よし、念のためあと一押ししておきましょうか。








「少し前から、薮井さんが安瀬さんをいじめてるって噂は聞いてたんだけど、

 薮井さん優しい子だから、信じられなくて・・・

 でも、薮井さんも、あの1年生にいじめられてたのよ!

 それに耐えられなくなって、きっと安瀬さんに八つ当たりしちゃってるんだわ!」



「・・・・・・その1年生というのは、誰なんだ?」





私の瞳を正面からまっすぐ見つめ、問いただすような声に一瞬身じろぎをする。



さ、真田くん、怖っ。

まーまじで怒ってくれたほうが、こっちとしてもありがたいわね。










「えーっと、たしか、外部生の・・・さん、って名前だったかな?

 その子、前から部長に近づくためにテニス部の幸村くんや仁王くんたちに取り入ってるって噂で・・・

 マネージャーが邪魔だってずっと言ってるって・・・」








ダンッ――――










突然、目の前の黒い壁がなくなったかと思うと、身体に軽い衝撃がきた。



真田くんが私を軽く突き飛ばして、廊下を走っていったのだが、

予想外の衝撃に私は対応しきれず、よろめいた・・・・・・と思ったら、両肩をがしっと誰かにつかまれ転倒は免れた。





重心を預けているほうに顔を向けると、そこには糸目でおかっぱの―――――柳くんがいた。





「真田がぶつかってしまい、申し訳ありません。」

「あ、いえ・・・」








この子は確か"データマン"よね。

でも、彼のデータはほとんど集まらない。

おまけに目も開いてるんだかわかんないし、何考えてんのかさっぱり・・・


敵に回すと怖いってのはなんとなく感じるわ。















「支えてくれてありがとう。じゃあ、私、行かなきゃ。」





そう言って、柳くんににっこり微笑んでから、私も第二音楽室へと向かった。













―――――さぁーて、どうなってるかしらね?
















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ちゃん、どうなる・・・?