『あ、双島さんこんにちは。』
「こんにちは。今日も暑いね〜。」
『そうですねー。でも、双島さんはあいかわらずお元気そうですね。』
「んー、さっきまで暑さでバテてたんだけどね、ちゃんを見ると元気が出たんだよ。」
いつものようにバイトとしてスポーツジムの受付で過ごす日曜日。
生徒さんの顔と名前もほとんど覚えられて、こうやって世間話をしながら予約の電話を取ったりしている。
でもあと1時間で受付の代わりの人が来るから
そしたらトレーニングルームに行って、飲み物配ったりケガ人がいないか見回りしないとね。
『あはは、ありがとうございます。
2時からプールジムのご予約でお間違いないですか?』
「うん。今日は人が多い?」
『まぁ日曜日ですからねー。でも今日は女性が多いので第3プールは比較的空いてると思いますよ。
はい、ロッカーの鍵です。今日も頑張ってくださいね。』
「ありがとう。」
『次の方どうぞ。ご新規の方ですか?』
「・・・・・・いや。」
双島さんが受付を離れると、後ろのソファで待っていた1人の青年(少年かな?)が歩いてきた。
その顔に見覚えがなかったため新規かどうか尋ねると、じーっと黙って顔を見つめられ
短い沈黙の後に否定の言葉が返ってきた。
双島さんの対応をしていたときから感じていたその視線は、なんだか品定めされてるみたいで・・・・・・
―――――居心地悪いんですけど。
『失礼いたしました。ご予約はされてますか?』
今日予約がある生徒さんはみんな知ってる人たちだったから、絶対予約はしてないだろうと思ったけど
まぁ決まりきった流れなので一応聞いておく。
すると予想に反して、「あぁ。」と短い肯定が返ってきたので少し驚きながらも、また決まりきった流れを言う。
『ご予約のお名前をお伺いしてもよろしいですか?』
「跡部景吾だ。」
074 世界は広い。
金髪のサラサラヘアにきりっとした眉、碧の瞳、通った鼻筋、気品ある雰囲気
それから、なんといっても―――――印象的な泣きボクロ。
ハーフかと思うようなルックスで、ちょっと偉そうな態度はいただけないけど
美形であることは認めざるをえないって感じだなー・・・
ってそんなこと考えてる場合じゃないわ。
『少々お待ちください。』
心からの営業スマイルを彼に向けてから、カウンター下のパソコンで予約を確認する。
あっれー?
やっぱり"跡部 景吾"さんなんて予約されてないけどなぁ・・・
―――――ん?
そういえば今日の朝、ヒロさん(病院の舞沢先生の弟さん)が経営関係者のVIPが来るって言ってたけど・・・
いや、でもこの人はいくら気品があるとはいっても
どう見ても学生だし(高校生っぽいけど大学生説も否定できないって感じ?)
VIPって、もっとこう・・・・・・白髪交じりのおじさんでしょ?
一応見てはみるけどさぁー・・・・・・―――――あ、
VIP予約欄にある《跡部景吾》の文字。
お、う、うぅぉぉおおおい!(江●2:50風に)
まじかよ、この人"経営関係者"かよ!
すげーな、おい!
世界は広いなぁ、おい!
ってこんなこと考えてる場合じゃないよ、おい!!←
一瞬ぶっ飛んだ頭をすぐさま平常運転に戻して、いつものように笑顔を向ける。
『《跡部景吾》さまですね。
2時からトレーニングルームのご予約でお間違いないですか?』
「あぁ。」
『こちらが"専用"ロッカーの鍵となります。
怪我にお気をつけていってらっしゃいませ。』
「あぁ。」
私から鍵を受け取って、颯爽と歩いていく後ろ姿は、あまりに堂々としていて
―――――なんつーか、絵になる人だなぁ。
そりゃ"VIP"ともなると、あんなオーラ出ちゃうんだなぁ〜。
なんてったって"跡部景吾さま専用ロッカー"があるくらいだもんね。(今日まで知らなかったけど。←)
そんなに頻繁に来るわけじゃないのに、専用ロッカーって・・・どんなご身分だよ。
いや、"経営者さま"ですよねー、はい。
・・・・・・ていうか、冷静に考えてみれば、このスポーツジムって"Atobe Sports Gym"じゃん(笑)
なんで気づかなかったんだろー?
何気なく、"跡部景吾"さまのお客さま情報を拝見。
ふーん、やっぱ跡部財閥のご子息さんなんだ。
超お坊ちゃまじゃーん。そりゃあのオーラでるわぁー。
えっ、・・・・・・お、同い年なんだね。
なんか世間狭いなーって思ったこともあるけど・・・・・・
うん、やっぱ世界は広いわ。
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キングv