屋上に出ると、太陽がぐっと近い感じがして

雲ひとつない快晴、まさにカンカン照りだった。



風はほとんど吹いてないけど、これならすぐに乾きそうだな、うん。












気持ち悪いからブラウスを脱いで、適当な手すりにかける。

風で飛ばないように、ひっかけてボタンをとめるのも忘れない。





スカートは・・・・・・さすがに脱げないかー、と思って気持ち悪いのも我慢、我慢。



そのポケットに入ってたケータイに異常はなくて、ほっと胸をなでおろす。










キャミソールとスカートという姿で、いつものように日陰を探してブルーシートをひき

その上に座ってぼんやり空を眺める。













あー、いい天気だなー・・・

6限目なんだっけー・・・それまでには乾くかなぁー・・・


このままいくと髪ぼさぼさになっちゃうかも・・・くしなんて持ってないし、手ぐしで頑張るかー・・・















「・・・・・・?」



『っ!?』





突然後ろから呼びかけられた声に反応して勢い良く振り返る。










『・・・・・・に、におーやさん?』





屋上なら誰もいないと思って来たけど、そういえばにおーやさんがいるかもしれないんだったー・・・



いつもの死角になってるとこにいたから全然気づかなかったよ・・・・・・
















073 噂と真実。















「・・・・・・」


『・・・・・・』





痛い痛い痛い、視線が痛い・・・








「・・・・・・・・・」


『・・・・・・・・・』





私のことを上から下までじーっと無言のまま見つめるにおーやさん。








「・・・・・・・・・・・・どうしたんじゃ、その格好。」


『・・・・・・・・・・・・あー、暑いからプール飛び込んでみた?』





「・・・・・・ふーん。」


『・・・・・・』





いや、そこツッコむとこだったんだけどな。


受け入れられちゃったよ、どうしようかなー、おい。








におーやさんはそれ以上なにも言うことなく、近くの壁にもたれかかった。





それでも彼の視線はずっと私を捕らえたまま。

何を考えてるのかわからない表情で、じっと私を見つめている。



私も目が合ったまま、なんとなく目をそらせなくて、じっと無言で見つめあった状態が続いている。










『・・・・・・』


「・・・・・・」





なんか今日のにおーやさん、おかしくない?

雰囲気がいつもと違う気が・・・する?





なんだか今のにおーやさんとの間に流れる沈黙には、いつもは感じない気まずさがあって

頭の中で必死に話題を探す。








『あ、そういえばさー、知ってる?私とにおーやさんが付き合ってるって噂。』


「・・・・・・さぁの。」





彼も迷惑してるんじゃないかなーって思って聞いてみたけど、

そっけない返事をするあたり、特にそういうわけではないみたい。


なーんだ、ちょっと気にしてたのに。損したー。





『興味ないですかー、ですよねー。

 ま、そんな噂なんてにおーやさんにとっては日常茶飯事ですもんねー。』





私が軽ーく嫌味をこめて言うと、彼は私の前まで歩いてきて、目線を合わせるようにしゃがんだ。








「事実にするか?」


『え?』





言葉の意味が飲み込めない私にはお構いなしに、正面からにおーやさんがどんどん近づいてくる。



右腕が後頭部にまわされたかと思うと、もう一方の手で肩がふいに押されてそのまま後ろに倒れこんだ。










―――――っ!?





背中にくるであろう衝撃にそなえて反射的に目をぎゅっと閉じたが

いつまでも背中には何も当たらないのを不思議に思ってゆっくり目を開ける。










―――・・・・・・近っ///






目の前には、視界いっぱいに広がるにおーやさんの顔。



彼は私の足の上にまたがって膝をつき

右腕を私の肩から後頭部にかけてまわして、床についた左腕1本で彼自身と私の上半身を支えていた。





彼はそのままゆっくり私の頭を支える右腕を下げて、私の背中が地面につけられた。



そして両腕を私の両肩付近において





―――――はたから見れば押し倒したような格好になっている。













『におーや、さん・・・///?』



さすがにこの体勢は恥ずかしいですよ・・・///?





「そんな格好で俺の前に来て・・・誘っとんかと思った。」


『い、いや、そんなんじゃ・・・///』


「わかっとる。」





におーやさんが私の髪をすくい上げて、彼の口元によせた。

その色気たっぷりの仕草、視線に思わず目が離せなくなる。





「・・・俺らのせいでこんなにされたんじゃろ?」


『・・・・・・んー、まぁ。』



彼は言葉こそ疑問系だったが、口調は確信していて・・・

否定しても無駄だと思ったので大人しく肯定しておいた。










「女は怖いのぅ。」





ため息混じりにそう言ってから、彼は私の上からどいて隣に座った。


私もうるさくなった心臓を落ち着けながら、上体を起こして、ちらりと隣の彼の横顔を見てから空に視線を移す。






『んー、そうだね。テニス部絡むと特にねー。』


「お前さん知っとんか?」


『なにを?』


「・・・いや、知らんならええ。」


『・・・マネージャーさんのこと?』





私が聞き返しても何も言わない。

否定しないってことは、そういうことなんだろう。








『へぇ、意外。部員も知ってるんだ。』


「俺らの前じゃ仲良さそうにしとるんじゃけどな。」


『やっぱそうなんだー。』


「まぁな・・・・・・ひとつ、聞いてもええか?」


『ん?なに?』


「うちのマネージャー、どういう噂なんじゃ?」


『え?』





さっき知ってる感じだったのに、内容を改めて聞いてくるって・・・どういうこと?

私が不思議そうな顔をしていると「ええから答えんしゃい。」と言って先を促される。








『噂ってわけじゃなくて、直接現場を見ちゃったんだけど・・・』


「誰が誰をいじめとった?」


『え?安瀬先輩が、薮井先輩を・・・?』





「・・・・・・やっぱりな。」








"やっぱり"ってどういうこと?知ってたんじゃないの?


私が頭の上に"?"クエスチョンマークがぐるぐる飛ばしていると

それに気づいたにおーやさんが小さくため息をついた。





「・・・俺たち部員に広がっとる噂は"薮井"先輩が"安瀬"先輩をいじめとるっていう噂じゃ。」


『え?』





それって・・・逆だよね?

どういうこと・・・?



ますますわからないといった顔をしている私の顔をチラリと見て、におーやさんは空に視線を移す。








「お前さんは直接見たんじゃろ?」


『え、うん・・・』


「だったら事実はそういうことじゃろ。

 ・・・俺もおかしいとは思っとった。

 薮井先輩はどっちかと言えばおっとりしとってどう見ても安瀬先輩をいじめとるとは思えんかったからな。」



『じゃあ、どうして・・・?』













「・・・・・・"女は怖い"ってことじゃろ。」


『それって・・・』





誰かがわざと、真実とは逆の噂を流してるってこと・・・?

でも、なんでわざわざそんなことを・・・・・・あ。








私の頭の中でひとつの可能性が浮かんだ。



でも、それはあまりにもマンガやドラマのような、どろどろした内容で・・・








隣に座っているにおーやさんの横顔を見つめてみても、彼の表情からはなにも読み取れず、

同じ結論にいたっているのかどうかはわからなかった。





・・・・・・まさか、ね。





てか、そうじゃないと願いたいよ・・・










ケータイを出して時間を確認すると、あと3分で5限目が終わるところだった。



よし、6限目は出よう。じゃないと真菜子が心配するからね・・・















だいぶ乾いた髪をかるくかき上げてそのまま耳にかける。


心にのしかかった重たーいものをふりはらうように勢い良く立ち上がってブラウスを干してある手すりに向かった。





よし、完全に乾いてる。





太陽の光をいっぱい吸収して温かくなったブラウスに腕を通しボタンをとめる





―――――と、後ろから視線を感じた。








振り返ってみると、ブルーシートに座っているにおーやさんが

立てた膝の上に頬杖をついてぼーっと私のことを見つめていた。










「せっかくええ光景じゃったのになぁ。」


『におーやさんならいつも、もっとナイスバディ見てるでしょ。』


「そうじゃな。」


『・・・否定しろっての。』





時計を見ても、いっこうに屋上を出て行こうとする気配のないにおーやさんにあっかんべーをして

私は屋上を静かに出て行った。













におーやさん次もサボるのかな・・・?


さすがにサボりすぎじゃない・・・?

















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仁王くんとの1コマ。布石になってたらいいなー・・・