毎日30度を超える真夏日が続き、ただでさえ体がだるいっていうのに
カレンダーを見ると夏休みの前に書いてある"期末テスト"という文字が私をあざ笑うかのように立ちふさがっていた。
中間テストでさえ数学の追試にひっかかったのに
期末となると、どうなることやら・・・あー、気が重い。
069 始まりの7月。
「ちょっとアンタ、聞いてんの!?」
『えっ、あ、はい・・・』
おっと、いけない。完全に思考が違うとこ行っちゃってた。
今、私の前に立ちふさがってるのはテストじゃなく、お姉さま方だった
・・・・・・あー、めんどくさ。
「聞いたわよ?合宿ではスタンツを利用して幸村くんにキスさせたらしいじゃない。」
「見るときには丸井くんにつきまとってたらしいし?」
「肝試しではずるして仁王くんとペアになったそうじゃない。」
「うわ、ほんと図々しいわね。」
『・・・・・・』
いや、幸村くんはキスっていっても手の甲だったし、しかもするフリだったし
・・・あ、いや、実際1回はされたけど、誰も見てないはずだし!
ブン太くんは確かに一緒に見てたけど、つきまとってたわけじゃ・・・
肝試しに限っては・・・・・・ねぇ?
なーんて言ったらますます火に油注ぐようなものだから言わないけどさ。
立海合宿から帰って約2週間。
テニス部員たちの合宿中の写真が、女の子たちの間で出回っているらしい。
なんでも制服やジャージ以外の姿はレアらしくて、高い値段で売買されてるとか。
と同時に、私が彼らとずっと一緒にいたという噂も広がってるらしくて・・・
廊下を歩いていると、ときどき突き刺すような視線を感じるし、
靴箱の靴には画びょうだったり、ひっつき虫だったり、"死ね"と殴り書きされた手紙だったり・・・
うん、いろんなものが入ってた。
そして今日はついに、帰ろうと靴箱のまでいったところで
3人のお姉さま方につかまって校舎裏まで連れてこられていた。
いや、ダッシュで逃げようかと思ったんだけど・・・・・・そんなことできる雰囲気じゃなかったんだよね。
「ちょっと、何とか言ったらどうなのよ!」
『っ!?・・・』
ずっと黙ってうつむいている私にしびれを切らせたのか、目の前に立つ先輩のうち1人が胸倉を掴んできた。
伏せていた目が無意識に上がって、すぐ近くにある先輩の目と視線がかち合う。
「・・・次はないって、言ったわよね?」
冷たくて低い声。とてもこの綺麗な先輩の声とは思えない。
そしてその言葉と同時に、首元がさらにぐっと締め付けられた。
『・・・先輩たちに文句言われるようなことなんてしたことないですけど。』
「なっ、生意気言ってんじゃないわよ!」
ドンッ―――
突然、腹部に激痛が走る。
胸倉を掴んでいた女の人が、そのまま思いっきりお腹を蹴り上げてきた。
『っ・・・・・・けほっ・・・』
あまりの衝撃に、思わず咳き込んでしまう。
しかしいまだに首を締め付けられているため、うまく息ができない。
「あんま調子乗ってると、こんなんじゃ済まないわよ?
私たち―――いや、"会長"をあんまり怒らせないほうがいい。」
『・・・けほっ・・・"会長"・・・?』
「そうよ。"会長"に目をつけられたら終わり・・・ふふ、もう手遅れかもね。
ま、今日はこのくらいにしといてあげる。せいぜい大人しくしておくことね。」
そう言って私の胸倉から手を離し、満足した様子で彼女たちは去っていった。
はぁーーー、
ふぅーーーーー。
ようやく解放された首元で大きく深呼吸をして、その場に座り込む。
スカートが汚れるだろうが、今はそんなことを気にしてられない。
今の腹キック、けっこう効いたな・・・
あんな全く迷いなく蹴ってくるなんて・・・慣れてるっぽかったな。
あのテニス部マネの"安瀬先輩"もけっこうやられてんのかな・・・
それに"会長"って誰・・・?
なんか言い方的に黒幕っぽかったけど・・・
生徒"会長"ってわけじゃなさそうだし(生徒会長は現テニス部の部長さんだからね)
なんの"会長"なんだろ・・・?
地面の芝生を手持ち無沙汰にむしりながら大きくため息をひとつついて、そのまま後ろに倒れこんだ。
頭上に生い茂っている木越しに見える空は、雲ひとつなくて
私の心とは裏腹に、爽やかに青々としており、まだまだ日は暮れそうにない。
あー、お腹痛い。
これからバイトだってのに・・・最悪。
・・・・・・はぁ、帰ろ。
嫌味なほど真っ青な空を見つめて大きく息を吐き出し
痛むお腹をさすりながらゆっくりと立ち上がった。
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7月編やっと入りました!