神奈川を離れて1時間弱。
電車に乗ってる間ずーっと金太郎くんの話を聞いてたら、あっという間に東京に着いた。
金太郎くんはテニスをしてて、青学の"コシマエ"くんと対戦するのが楽しみなんだとか
得意技が"
この合宿に持ってくる予定だったお金は、たこ焼きに消えてしまったとか
・・・なんだか微笑ましい話ばっかりでした。
067 世間は狭い。
「コシマエー!どこやーっ!」
『き、金太郎くん、速っ・・・』
青春台駅に着いた瞬間に、金太郎くんが再び私の腕を引っぱって走り出す。
自信満々にどこかへ向かってるけど・・・方向わかってないでしょ!
『ちょ、金太郎くん!1回止ま「金ちゃん!」・・・え?』
1回止まってキヨに確認しよ?って言おうとしたら、途中でおそらく金太郎くんを呼ぶ声がした。
たぶん"金ちゃん"って金太郎くんのことだよね?
金太郎くんにはその声が聞こえなかったみたいで、いまだ走り続けているため
仕方なく足を動かしながら声のしたほうに視線を向けると、
テニスバックを持った少年2人が私たちのほうを見て驚いた顔をしていた。
まぁ道行く人のほとんどがすごい勢いで走る私たちのほうを見るんだけど・・・
呼んだのは彼らで間違いないだろう、うん、たぶん、絶対。女のカンで。
『金太郎くん!あの人たち、呼んでる!』
「なんや?あ、しらいし〜!けんや〜!」
『あ、ちょ・・・』
私の呼びかけに反応して金太郎くんがさっきの少年2人を見た瞬間、急に方向転換して彼らのほうへ走り出す。
こ、今度はそっちー!?
あー、なんかすごい世話のかかる犬の散歩してる気分・・・
「しらいし〜!けんや〜!ここにおったんか〜。」
「"ここにおったんか〜"やないわ!めっちゃ探したで!?」
「金ちゃん、今までどこにおったんや?勝手に新幹線降りたらアカン言うたやろ?」
『・・・ハァ・・・ハァ・・・』
金太郎くんが「せやけど富士山が見えたんやで!?富士山!!」と少年たちに言い訳をしている中、
私は胸に手を当てて、心臓を通常運転に戻そうとしていた。
あー、しんど・・・ちょっと体力つけなおそうかな・・・
「ところで金ちゃん、この人は誰なん?」
ふいに視線を感じて顔をあげると、金太郎くんともう2人の目が私のほうを向いていた。
そこで初めて、私は少年たちの顔をまじまじと見た。
2人とも年はそんなに変わらない感じかな?
1人は、明るい金髪で髪の短い人で、
顔はかっこいいんだけどなんとなーく親しみやすさが顔ににじみ出ている。
・・・なんか私の顔見て固まってるけど、なんかついてるのかな?
もう1人は、銀に近いようなミルクティー色の髪で、優しい雰囲気をまとった綺麗な顔立ち。
まさにイケメン、まさに美少年って感じ。
そして、なにより目がいったのは・・・・・・
彼の左腕に巻かれた包帯
―――――左腕の古傷がずきんと痛んだ気がした。
「や!道に迷っとったら、が神奈川からここまで連れて来てくれたんやで〜。」
無意識に昔のことが思い出され眉間に皺が寄っていたが、金太郎くんの明るい声ではっと我に返る。
視線をミルキーくん(ミルクティー色の髪の人)の腕から顔に向けると、申し訳なさそうな顔で私を見ていた。
「神奈川におったんかいな・・・えらいうちの金ちゃんが迷惑かけてしもたなぁ。」
『ううん、どうせ暇だったし。金太郎くんがかなり困ってたみたいだったしね。』
「だって、だーれも道教えてくれへんねんもん。腹も減っとったし・・・
あ、そうや!パンもくれたんやで!」
「食いもんまでもらったんかいな・・・さんほんまおおきに。
謙也、とりあえず財前に・・・って、謙也?」
"謙也"と呼ばれた少年は、さっきからずっと私の顔を見て固まったままだった。
彼が"謙也"ってことは、ミルキーくんは"しらいし"くんか、ふんふん。とひとりで納得していると
その"しらいし"くんが"謙也"くんが上の空なのに気づいて「おい、謙也。」と肩をたたき、
やっと我に返ったみたいだった。
「な、なんや!?///」
「それはこっちのセリフやっちゅーに・・・あ、さてはさんに見とれとったな?」
「ち、ちゃうわアホ!///変なこと言うなや!」
「あー、けんやー!照れとる照れとるー!」
「金ちゃんうっさいわ!お前は黙っとれ!///」
「けんやー、顔赤いでー?」
「うっさい!///」
金太郎くんの知り合いに会えたから、少しは大人しくなると思ったら・・・
その正反対だったね。相乗効果だったね。やっぱり類は友を呼ぶんだね。←
私がその様子をぽかんと見ていると、それに気づいた"しらいし"くんが
「わかったから、とりあえず財前に連絡しといてくれるか?」と"謙也"くんに言って、とりあえずその場は落ち着いた。
"謙也"くんはどこかに電話をかけ始め、金太郎くんはあいかわらず楽しそうにあたりをきょろきょろしている。
そんな中、"しらいし"くんは私に向き直って苦笑いを浮かべた。
「さん、ほんまおおきに。わざわざ神奈川から来てくれたんやろ?
あとでよう金ちゃんに言うとくから。」
『ううん、気にしないで。金太郎くんの友達と早く会えて良かったよ。』
「そう言ってもらえると助かるわ。」
そう言って眉を下げる"しらいし"くん。
なーんか、彼って金太郎くんの保護者みたいだね。
でも苦労してるんだろうなー。
金太郎くんは今だって、ちょっと離れた屋台のクレープ屋のとこ行っちゃったし・・・
・・・あれ?
ふと目の前の彼が肩にかけているテニスバックを見ると"SHITENHOJI HIGH SCHOOL"というロゴが目に入る。
―――――してんほじ・・・四天宝寺?
『あれ、"しらいし"くんって四天宝寺高校なの?』
「せやで。なんや、知っとるんか?」
『うん、私のお兄ちゃんが今そこに通ってるんだよね。』
「えっ、そうなん?奇遇やわ〜。名前はなんて言うん?」
『" 翼"だよ。高3の。』
「え、さんって翼先輩の妹さんなん!?」
翼の名前を口にすると、"しらいし"くんは驚いた顔で私を見た。
高校が一緒だから知ってるかなーと思って軽い気持ちで聞いてみただけだから
驚く"しらいし"くんに私もびっくりする。
『うん。翼のこと知ってるの?』
「知ってるもなにも・・・翼先輩のこと知らんやつなんて四天宝寺、いや大阪にはおらんて!
中学の頃から個人的にお世話にもなってるし。」
『へぇー、そんなに有名なんだ。』
「サッカー部のエースやしなぁ。
そういえば2歳下にめっちゃ可愛い妹がおるって言うとった気がするわ・・・
さんのことやったんやね。」
『そんなこと言ってんの?・・・あの超シスコンばか兄貴、あとで文句言ってやろ。』
声のトーンが明らかに上がる"しらいし"くんとは対照的に、私の声はみるみる低くなる。
勝手に色んな人に"可愛い"とか言うなっての!
ハードル上がりすぎて実際会ったとき落胆されたって私悪くないからね!
"しらいし"くんは不機嫌になった私の顔をまじまじと見ていたかと思うと突然ふっと笑った。
「ほんまに仲ええんやね。」
『翼の片思いだっての。』
「まぁ翼先輩の気持ちはわかるわ。さんかわええし。」
『そんなお世辞言わなくても翼に告げ口したりしないから大丈夫だよ。』
「お世辞やないんやけどなぁ。」
『ほんと?やったvじゃあ翼に"しらいし"くんに何か奢ってあげるように言っとくねv』
「しめた!おおきにv」
『・・・やっぱそれ狙いか。』
「アカン、口がすべった・・・」
彼の"しまった"という顔を目を細めて軽くにらむと、2人で同時にぷっと吹き出す。
「さん、おもろい子やなぁ。でも、ほんまにお世辞やないで?」
『じゃあ素直に受け取っておきます。ありがと。』
そう言ってにっこり笑うと、彼の瞳が一瞬見開いた―――――気がした。
でもそれも一瞬のことで、すぐに彼もにっこり笑う。
あー、やっぱりイケメンだぁ。
イケメンなら周りにけっこういるけど、こんな爽やかな人はいないかも・・・
「なんやわからんけど、さんとは縁感じるわー。
あ、自己紹介してへんかったな。俺は白石蔵ノ介。よろしゅう。」
『です。よろしくね。』
「翼先輩の2つ下ってことは高1やんな?」
『うん、そうだよ。』
「せやったら俺とタメやな。ほんま奇遇やな。」
『そうなんだー、ほんと奇遇だねv
あれ、てことは高校生だよね?金太郎くんとは同じ合宿なの?』
「ちゃうちゃう。俺と謙也・・・あ、さっきのやつな。俺らはちょっと後輩の応援に来ただけや。
今日学校が創立記念で休みやったからな。」
『大阪からわざわざ来るなんて、優しい先輩なんだね。』
「お世辞言うても何もあげへんで?」
お世辞じゃないんだけどなー、と思いつつ『あ、バレた?』と笑うと「やっぱりお世辞やったんかい。」と彼も笑う。
うわー、超爽やかなんですけどー。立海には爽やか要員いないからなー・・・え、幸村くんはって?
・・・最近たまーに暗黒オーラでてるから怪しいんだよね。←
なんて1人で思考が脱線していたら、"謙也"くんが電話を終えて帰ってきた。
「白石、財前たちはホテルに荷物置いたとこでこっちに向かっとるらしいわ。」
「ほんまか。そら良かったわ。
それよりな、さんって翼先輩の妹さんらしいで。」
「翼先輩って・・・あの翼先輩か!?」
「せや。すごい偶然やろ?」
『です。いつも翼がお世話になっております。』
「とんでもないわ!世話になってるのは俺らのほうっちゅー話や。
俺は忍足謙也。謙也でええで。みんなそう呼ぶからな。」
『ん、わかった。謙也くんね。』
「あ、俺も蔵ノ介でええよ。みんなにそう呼ばれとるし。」
「・・・お前のことそう呼んどんの、かーちゃんぐらいやろ。」
「ちゃうわ!妹も呼んどるわ!」
『あはは、わかったよ。謙也くんと白石くんね。』
「さーん・・・」
「ははっ、白石どんまい。」
がっくりとうなだれる蔵ノ介くんを見て、謙也くんと顔を見合わせて笑う。
勢いで東京まで来ちゃって、一時はどうなることかと思ったけど
すぐに金太郎くんの先輩に会えて良かった〜v
彼らも良い人たちみたいで、ほんと一安心。
でも、こんなところで翼の後輩と出会えるなんて・・・世間は狭いな〜。
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蔵ノ介と謙也との出会いv