《じゃあ次"A21"の人ー、もうすぐスタートなので来てくださーい。》
『はーい。』
あのあと何人かの男の子にくじの番号を聞かれたけど
みんな違ったみたいで相手はまだわからなかった。
んー、良い人だったらいいなぁー・・・
・・・・・・あれ?
Aコースのスタート地点、代表の学級委員さんのいるところに向かうと
よーく見知った人物がそこに立っていた。
『・・・におーやさん?』
064 立海合宿2日目 肝試し。
『まさかペアの相手がにおーやさんだったとはねー。』
入り口でそれぞれ懐中電灯を受け取って、におーやさんと並んで山道を歩く。
広場からだいぶ離れると、夜の山はとても静かで木々が風に揺れる音しか聞こえない。
山道は、当たり前だけど街灯一つなく、月も完全に雲に隠れていて
明かりは私が手に持った懐中電灯の光だけだった。
生徒達の企画した肝試しだからどんなのだろうと思ってたけど・・・
うん、予想以上に本格的だ。
「お前さん、こういうのは平気なんか?」
隣のにおーやさんは、入り口でもらった懐中電灯をポケットにしまいこみ
そのまま両手もポケットにつっこんでふらふら歩いている。
『肝試し?んー、意外と大丈夫なんだよねー。』
「あいかわらず可愛くないのぅ。」
『きゃー、こわい。わたしをまもって?』
「今更言ってもきもいだけぜよ。」
『あいかわらず毒舌ですのぅ。』
そう言いながら私が懐中電灯であごの下から顔を照らし
自身の顔を不気味にライトアップすると
それを見たにおーやさんがクックッと笑った。
「お前さん変わっとるから幽霊とか信じてそうなのに意外じゃな。」
『え?幽霊は信じてるけど?』
さも当たり前のような顔で答えると、におーやさんはきょとんとした顔をする。
いや、だって幽霊はいるでしょ。
あんだけ心霊写真とか心霊スポットとかあるんだから・・・
「怖くないんか?」
におーやさんのその言葉に私ははっきりとうなずいた。
『そもそも"幽霊=悪い人"っていうイメージは間違ってると思うんだよね〜。
だって幽霊さんって元をたどれば人間だったわけじゃないですかー。
"人間=悪い人"ってわけじゃないんだし、
幽霊さんがみんな悪い人だって決め付けるのは良くないと思わない?
ていうか、こんな山道だと熊とかヘビのほうがよっぽど怖くない?』
私が同意を求めて隣を見ると、
におーやさんは「やっぱりは変わっとる。」と言ってクックッと笑った。
『こんなシチュエーションでにおーやさんと2人きりとか
他の女の子たちに申し訳ないなー。』
「ふーん。」
『みんなにおーやさんとなりたがってたよ?』
ナイスバディな栄岡さんとか、モデルみたいな三麓さんとか。
私がそう言うとにおーやさんは興味なさそうにあくびをした。
うわー、可愛い子がいっぱい騒いでくれてんのに興味なしかい!
ほんとモテる男は違いますね〜。
・・・あれ?
におーやさんは"Bの09"ていう噂があったよね?
そのくじを女の子たちが必死で探してたけど・・・
今私と一緒にいるってことはその噂はデマだったのかな。
いや、もしかしてあんなことがあった後だから、
男の子と2人きりになるの心配して私とペアになってくれたとか?
まぁ確かに、におーやさんとだったら安心だけど。
んー、でもわざわざそこまでするタイプでもなさそうだけどなー・・・
『ねぇ、くじ換えた?』
私が思い切って隣を歩くにおーやさんに聞いてみると、
彼は私と目を合わせることなく「さぁな。」と答えた。
うーん、謎だ。
『あ、におーやさんは大人っぽい人が好きだからタメには興味ないのか。』
この前キスシーン見ちゃったのも相手が先輩みたいだったし。
におーやさんを狙ってるらしい子はなんとなく大人っぽい子が多い気がするし・・・
「誰から聞いたんじゃ、それ。」
『んー、噂?"年上キラーの仁王くん"って。』
「強引にくるのが年上ばっかりなだけじゃ。別に年上が好きなわけじゃない。」
『ふーん。』
まぁ噂を信じてたわけじゃないけどさ。
つまりは"来る者拒まず、去る者追わず"ってことだよね。
つまりはモテるってことですね。
「は男作らんのか?」
突然、におーやさんに聞かれて隣を見ると
続けて「お前さんも"一応"作ろうと思えばすぐ作れるじゃろ。」と言われる。
おーい、におーやさーん・・・"一応"ってなんだよ、"一応"って。
『んー、今はいらないや。ちょっとトラウマあって恋愛お休み中なの。』
「トラウマ?」
『うん。アメリカでいろいろあってさー。とくにモテる男にはもうこりごり。』
「弄ばれたんか?」
『そーゆーわけじゃないんだけどね。』
私が笑いながらそう言うと、
隣を歩く彼は道端を見つめたまま何かを考えてるみたいだった。
「あいつのこと、どうするつもりなんじゃ?」
少しの沈黙の後、突然におーやさんが言った。
さっきまでの気だるそうな声とは違い、真剣なものになっている。
あいつ?
あいつって誰だっけ・・・?
『・・・あぁ、石立くんのこと?』
私が聞いても、におーやさんは何も言わずに歩き続けている。
否定しないということは合ってるんだろう。
『んー、別にどうするつもりもないよー?
騒ぎにしたらさすがに可哀相じゃん?』
まぁ、もう関わりたくない忘れたい面倒くさいってのが本音なんだけどね。
私のその言葉を聞くとにおーやさんは黙ってじっと私の顔を見つめ
これ以上この件に関して何も言うことはなかった。
2人で他愛無い話をしながらしばらく歩くと、
少し先の道が広くなったところに街灯があって明るくなっていた。
その下の石でできたテーブルのようなものにランプが置かれ、
"チェックポイント"という紙が貼ってあるのが見える。
『あ、チェックポイントはっけーんv』
『今のお気持ちは?』と懐中電灯をマイクに見立ててにおーやさんに向けると
あごの下から照らされた彼の顔を見て一瞬ぎょっとしてしまった。
整った顔+銀髪とか不気味さ増すわー・・・
「自分でやって何びびっとんじゃ。」
彼はそんな私を冷めた目で見てから、あごの下に向けられた懐中電灯を奪って
そのまま先に歩いていく。
『あ、ちょっと待ってよ!』
その懐中電灯は私のなんですけど!
自分のはポケットの中に持ってるでしょーが!
急いでにおーやさんに追いついてそのまま歩いていくと
すぐにチェックポイントに到着。
テーブルの上には箱が置いてあって、その横には
《この箱からカードを1枚引いて下さい。》と書いてある。
それを見た におーやさんに目で促されるがまま、私はその箱に手を突っ込む。
箱から手を出して、ひいたカードを見ると
トランプみたいな白い紙に《ツーショットの写真を自撮り》という文字。
『あ、これってさー、
"写真撮る→写真送って〜→あれ、アドレス知らなくね?→交換しよ"っていう
アドレス交換の極自然な流れを作り出す最高のシチュエーションじゃない?
学級委員さんやるね〜v』
私がカードの内容をにおーやさんに見せながらにやにや笑うと
彼は興味なさそうにちらっとだけ見てケータイをポケットから取り出した。
「そんなことせんでも普通に聞けばいいじゃろ。」
『これだからモテる男は・・・わかってないな〜。』
「撮るぞー。」
『ちょ、ちょっと!私見切れてるって!もうちょっと角度変えてよ!』
身長差がかなりあるから
今の角度じゃ私、目がぎりぎりうつってるくらいなんですけど!?
私が彼の手からケータイを奪おうとジャンプしていると
「やめんしゃい。落としたらどうすんじゃ。」と届かないようにますます上に上げる。
そんな彼の無防備なわき腹にパンチをしようとすると
さっと避けられ、もう一方の手で私にでこぴんを食らわしてきた。
いったー・・・不意打ちはまじで痛いって・・・
反射的におでこを押さえた手を離して、どう反撃しようか考えていると
その瞬間に《カシャッ》というシャッター音が聞こえた。
『いやー、顔は見切れてないけどさー・・・』
やっとケータイを奪って撮った写メを見てみると
ケータイ争奪戦真っ最中のせいで髪がちょっと乱れ、不機嫌そうな私の隣で
におーやさんは余裕綽々の意地悪そうな笑みを浮かべていた。
『・・・なーんか楽しそうな写真じゃん。』
におーやさんは。と付け足すと彼は
私の手からケータイを取り返して、何も言わずに歩き出す。
『ねぇ、それ送って?』
「のアドレス知らんし。」
『じゃあ、交換しよっかv』
そう言ってにししと笑った私に、彼はあきれたような目を向けてから
私の手にあったケータイを奪ってなにやら操作した。
返って来たケータイのメモリーには
―――――新たに"仁王 雅治"が加わっていた。
*************************
合宿2日目終了です。