"安瀬先輩"は幸村くんに手を振りながら、私が廊下に出たのを確認して歩き出した。
私もあわてて後を追い、彼女から2歩ほど後ろをついていく。
歩き出した"安瀬先輩"は私のほうを全く気にする様子もなく、
無言でどこかへ向かっている。
047 忠告。
さっきまではにこにこ友好的な雰囲気だったのに
急に黙ってしまった彼女の態度に戸惑いを覚える。
彼女は階段を上がって、空いている特別教室の前で立ち止まった。
「ここでいいかな?」
『あ、はい。』
明らかにさっきよりも声のトーンが低い。
促されるままに、おそるおそる教室の中へ入ると
彼女はドアを閉めた瞬間
私のほうをキッとにらんだ。
こ、こえぇーよー・・・
そう言えば、この人って確か
もう1人いるマネージャーの人をいじめてるんだよね・・・?
あー、もうなんで忘れちゃってたんだろう。
3分前の私ばかー・・・
「さん。」
『は、はいっ。』
驚くほど冷たい声で名前を呼ばれて
現実逃避から無理やり帰還したため
軽く声が裏返ってしまった
・・・が、ここで笑ってくれる相手ではない。
「なんで呼び出されたのか、わかる?」
『いや、えっと・・・』
テーピングをどうやって勉強したか教えるため
ってわけではなさそうだし・・・
そもそも、こうやってまともに話すのなんて今日が初めてだし
呼び出される理由なんて思いつかない。
「わからないみたいだから教えてあげる。
もうテニス部にはこれ以上関わらないで。
私が言いたいのはそれだけよ。」
『・・・へ?』
「あんたが部長の手当てをしてから
みんなあんたをマネージャーにさせようと必死だわ。
今までは私さえいれば充分だって言ってくれてたのに・・・」
完全にやきもちっつーか、独占欲っつーか・・・
八つ当たりじゃないか・・・
女の嫉妬は怖いねぇー・・・
ていうか、マネージャーってたしかもう1人いるでしょ。
その人の存在は完全無視してるよね・・・
私が彼女の言葉に呆れ+困惑していたら
なにも言い返さないことにいい気になったのか
彼女はさらに強い口調で私に言う。
「とにかく、テニス部のみんなは私のものなの。
これ以上部員たちをたぶらかさないで。」
『これ以上もなにも彼らをたぶらかせたことなんて
あぶらかたぶらナッシングなんですけど。』←
・・・そう言おうと思ったけど
確実に火に油を注ぐことになるのは目に見えていたので
ぐっと我慢して素直にうなずいておいた。
それを見て"安瀬先輩"は「わかればいいのよ。」と言って
さっさと教室を出て行く。
1人でぽつんと教室に残された私は
すこし気が抜けてそのへんのイスに適当に腰をかけた。
テニス部にはマネージャーが2人
―――――"安瀬先輩"と、確か"薮井先輩"がいて
その2人ともが2年生らしいんだけど
とてもしっかりとしたマネージャーらしい。
とくに、さっきの"安瀬先輩"は容姿も可愛らしくて部員からの信頼も厚い
・・・んだけど。
もう1人のマネージャーの"薮井先輩"のことをいじめていたり
かと思えば、集団リンチまがいのものを受けていたり・・・
なんかよくわかんないけど
正直関わらないほうが良いな、うん。
あーぁ、今から授業を受ける気分ではないんだけど
"安瀬先輩"と出てったとこ幸村くんに見られてるし
なんかあったと思われるのも嫌だから大人しく帰ろっか・・・
そう思って教室のドアに手をかけた瞬間に予鈴が鳴り
私は少し駆け足で教室へ向かった。
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じわじわ事件の予感・・・