立海大に入学して、気がついたら2ヶ月が経っていた。
初めて着る夏用の制服。
真っ白のブラウスにネクタイをしめて
買ったばかりのビーズでできたネクタイピンをとめる。
おー、なんか新鮮・・・
046 訪問者。
まだ朝で気温はそこまで高くないというのに
不快な湿度の高さによって
じんわりと額ににじむ汗をぬぐう。
日本独特の蒸し暑くじめじめした夏が
すぐそこまで迫っているのを実感していた。
ふぁ〜あ。
暑いし、眠いし、だるーい・・・
力の入らない足をなんとか動かして階段を上り
あくびによって自然と開く大口を必死で隠して教室へ入る。
私は涙でぼやける視界のなかで、1人の生徒と目が合ったのがわかった。
彼はいつものように涼しげな笑顔で微笑む。
「おはよう、さん。」
『おはよー、幸村くん。』
今日も爽やかですねー。
幸村くんの近くだけ、なんか湿度低くて快適な気がするのはなんでだろ・・・
「眠そうだね。大丈夫?」
『んー、きのうバイトから帰るの遅くて
ちょっと寝不足なんだよねー・・・』
「だったらバイトなんてやめて
テニス部のマネージャーやればいいじゃないか。
部長も先輩たちもみんな言ってるよ?」
『いやー、それはちょっと・・・』
この前ねんざのテーピングをしてあげた人が部長さんだったらしく
あれから真剣にマネージャーになってくれと何度か誘われた。
まあ、その度に丁重にお断りしているわけですけども・・・
それでもケガ人がでたとかでわざわざ呼びに来られたときは
断ることができず行っちゃうんだけどねー。
でも、その度に感じるギャラリーの女の子の視線が痛い痛い・・・
ただでさえ女友達が少ないのに
これ以上目をつけられたら立海でやってけないからね。
「さんがマネージャーになってくれたら、俺も嬉しいのに。」
『うーん、その気持ちは嬉しいんだけどねー。
やっぱり今はバイトを頑張りたいんだ。』
「そうか。本当に残念だよ。
やってくれる気になったらいつでも俺に言ってね。」
たぶん一生そんな気にならないけど。
そう思いながらあいまいに微笑んでいると
ふと背後から幸村くんを呼ぶ声がした。
「あれ、安瀬先輩?」
そうつぶやいた幸村くんの視線を追っていくと
廊下に1人の女子生徒が立っていた。
彼女は確か・・・マネージャーの人。
何度か(強制的に)テニス部のマネージャー手伝いをしたこともあるし
顔見知りではあるんだけど
・・・理科室からいじめられてる現場とか見ちゃったから
一方的にだろうけどなんとなく気まずい。
「どうしたんですか?わざわざ1年生の校舎まで。」
幸村くんが廊下のほうに向かったため、自分の席へ行こうとすると
今度は背後から「さん。」と私を呼ぶ声がした。
振り返ると、"安瀬先輩"がまっすぐに私のほうを見ていた。
「ごめんね、今日はさんに用があって
幸村くんに呼んでもらおうと思って声をかけたのよ。」
『私に・・・用、ですか・・・?』
彼女が私に一体何の用なんだろう?
もしかして・・・あのとき理科室から見てたの気づいてたとか?
それで余計なことするんじゃないわよ!的な・・・?
私がおそるおそる"安瀬先輩"のほうに近づくと
彼女は可愛らしい笑顔を私に向けた。
「さん、いまちょっと時間あるかな?」
『あ、はい。1限目が始まるまでなら・・・』
今日は涼しいうちに来ようと思って、いつもより早く来ていたから
予鈴が鳴るまではまだ少し時間があった。
「やったぁv
あのね、良かったら私にテーピングをどうやって勉強したかとか
教えてくれないかなぁ?
ほら、いつまでもさんのこと呼び出したりしちゃうと悪いじゃない?
だから私が出来るようになればさんにも
迷惑をかけないで済むと思ったんだけど・・・」
『はい。大丈夫ですよ〜。』
そういうことなら私にとっても好都合だし。
まあ、テーピングなんてほぼ独学だから
教えることなんてなにもないんだけど・・・
「ここだとちょっとアレだから
場所変えてもいいかな?」
『あ、はい。』
まあ確かに、違う学年の廊下とか居心地悪いだろうしね。
どっか空き教室にでもいくのかな?
「じゃあ幸村くん、また部活でね。」
「はい。」
"安瀬先輩"は幸村くんに手を振りながら
私が廊下に出たのを確認して歩き出した。
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さてさて・・・