保健室では、柳の言ったとおりちゃんがいて

男と2人きりだったからちょっと強引に連れてきてしまった。
















045.7 新たな一面。by丸井















ちゃんをコートのほうへ連れてくると

ギャラリーの女子たちの視線に苦笑いをしていた。



部長はコートの端のベンチに座って氷水の入ったバケツに足をつけていた。





俺はそこまでちゃんを案内する。








「丸井、その子は・・・?」


「え、あ、えーっと・・・」



つれて来いと言われたからつれて来た、なんて言えねーし・・・





『保健委員として、応急処置をしにきました。』


「そっか。わざわざごめんね。」





俺が言葉につまっていると、ちゃんが答えてくれた。



そして部長の足元に座り

バケツから出した部長の足首を、真剣な顔で見つめている。










『あー、確かに腫れてる・・・完全にねんざですね。』


「やっぱりねんざか・・・来週に試合があるんけど、間に合うかな?」


『んー、絶対安静にしとけばぎりぎり大丈夫だとは思いますけど・・・

 まあ病院に行くのが1番早く治りますよ。

 とりあえず、テーピングしときましょうか?』


「うん、ほんと悪いね。お願いします。」


『大丈夫ですよー。』






ちゃんは救急セットからテーピングとはさみを出して

慣れた手つきでテーピングをしていく。










ちゃんそんなことも出来たんだ・・・



つか、部長・・・ちゃんに触られて顔赤くなってるし。





あー・・・・・・羨まし。










ほんの1分もかからないくらいでテーピングは完成した。





『テーピングでは、あくまで日常生活で動かない程度に固定してるだけです。

 痛くないからといってテニスとかするとすぐに悪化しちゃうんで

 完全に腫れがひいて痛くなくなるまでは絶対安静にしてくださいね。』


「わかった。ありがとう。」



『どういたしましてです。じゃ、お大事に。』










ちゃんがテーピングを終えて立ち上がると

ポケットからケータイが落ちた。





『あ。』





ちょうど俺の足元に落ちたため、それを何気なく拾う。





手の中にあるケータイは、地面に落ちた拍子にボタンが押されたのか

画面が明るくなっていて待ち受けが自然と目に入った。





三毛猫が座布団の上で丸くなっている写真。










「はい。」


『ありがとブン太くん。

 落としちゃってごめんねー、ダイキー。』





俺がケータイを渡すと、ちゃんは大事そうに受け取って

待ち受け画面のネコのひたいをなでている。








・・・え、いま、"ダイキ"って言った?





ちょ、どういうことだよ。


"ダイキ"って彼氏なんじゃ・・・





は?



もしかして・・・










ちゃん、"ダイキ"って・・・」


『可愛いでしょ〜vえへへ。』





満面の笑顔で待ち受け画面を見せてくるちゃん。



改めてもう1度見ても、映っているのはやっぱりネコの写真で・・・







『野良猫なんだけどね。なんかすっかり懐かれちゃってさー。

 ほんとはうちのマンションってペット禁止なんだけどさー。

 可愛すぎて突き放せないっていうかー・・・』


「そっか・・・・・・そっか!」





俺はここ最近ずっとのしかかっていた重りがとれて

心が軽くなるのを感じた。


相槌をうつ俺の表情も、自然と笑顔になる。













なんだちゃん、彼氏いねぇんじゃん!

良かった〜v


さっきまで悩んでた自分がアホらしいっつーの。



あー、ネコにでれでれのちゃんもやっぱ可愛いな〜///





この心がぽっと熱をもつ感じも、すげー久しぶりな気がする。



やっぱ俺、ちゃんのこと好きだわ・・・












ふと仁王を見ると、一瞬目が合ってすぐにそらされた。



そしてそのままそっぽを向いているが

口元は確実にゆるんでいて、必死に笑いを耐えているのがわかる。








・・・あいつ、ぜってー知ってて面白がってたな。















俺はちゃんの愛猫自慢をききながら

仁王の言うことを今後一切信用しないと心に固く誓っていた。
















************************

ようやく5月編終了です!
ここまで読んでいただきありがとうございました。
感想なんかをいただけると泣いて喜びます。