「この時間に丸井がおるなんて珍しいのぅ。」
心に大きな衝撃を受けて教室へ戻り、
自分の席で机にへばりついていると
保健室で4限目を過ごしていた仁王が帰ってきた。
「まあなー。」
「どうした、にフラれたんか?」
「・・・・・・」
どうしてコイツはこういうときに鋭いんだよ・・・
何も答えなかった俺を仁王が少し驚いた顔で見ていた。
045.5 やけ食い。by丸井
「なんじゃ、告白でもしたんか?」
机に伏せてしまった俺の前の席に仁王が座る。
「いや、告白する前に玉砕だっつーの・・・」
「どういう意味じゃ?」
「・・・彼氏いたんだよ、ちゃん。」
俺の言ったその言葉には、仁王も驚いてるみたいだった。
ま、こいつの場合、表情はあんま変わんねーんだけど。
なんとなくの雰囲気で驚いてることがわかった。
「・・・それ、ほんまなんか?」
「あぁ。今日だって一緒のベッドで寝てたらしいし・・・」
仁王が疑うような目で俺を見てくるけど・・・
俺だって信じたくねぇんだよ!
「ずーっとケータイで写真見てにこにこしてるしさー・・・」
俺がそう言うと、仁王が何か思いついた表情に変わる。
なんなんだよ・・・?
「・・・もしかして、そのの彼氏って"ダイキ"って名前か?」
「な、なんで知ってんだよ!」
仁王から"ダイキ"の名前が出てきたことに驚いて
張り付いていた机から上半身を起こすと
仁王がクックッといつものように笑いだした。
「なに笑ってんだよ。俺が失恋したのがそんなに嬉しいかよ。」
「いや、も面白いが・・・丸井も負けてないぜよ。」
「はぁ?」
何にも面白くねーっつーの!
もう、こうなったらやけ食いだ、やけ食い!
俺は前の席でにやにやしている仁王を軽く睨んでから
食べ損ねていた昼飯を食べ始めた。
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あー、やる気しねぇー・・・・・・
「なんじゃ、丸井。覇気がないのぅ。」
部活中にドリンク片手にベンチで休んでいると
にやにやしながら仁王が隣に座った。
「そんなことねぇって。」
「ふーん・・・あ、。」
「どこどこっ!?」
仁王の口から出た名前に反応して、反射的にベンチから立ち上がると
後ろで仁王のクックッという笑い声が聞こえる。
「お前、まさか・・・」
「嘘じゃ。」
「・・・・・・」
俺はいまだ笑っている仁王を思いっきり睨んで、彼の隣にどかっと座る。
こいつ、まじでうぜぇ・・・
あー、いちいち腹立ててたら俺がもたねぇ。
隣の彼に聞こえるように、わざと大きくため息をついてから
これ以上からかわれないために話題を変える。
「そういえばさー、お前のケータイに貼ってる変なシール
あれって何なんだよ?」
「あー、あれか。
変とか言うたら、が怒るぜよ?」
「え?ちゃん?なにそれ、どういうことだよ!?」
俺は予想外の名前が出てきたため、俺の声は自然とでかくなる。
あー、話題変えたのに意味ねぇし・・・
「あいつが貼ったんじゃ。」
「まじかよ。いいなー、俺も欲しい。」
仁王の持ち物に、女が勝手にプリクラなんかを貼ることはよくある。
それを本人がはがすことはなく
他の女がそれをはがすのを止めることもない。
けど、そのちゃんから貰ったシールはだいぶ前から貼ってるよな・・・
他の女に剥がされなかったのか・・・?
俺でも気になってたくらいだから
気になる女子なんてたくさんいるだろうに・・・
・・・もしかして仁王が剥がさせない、とか?
いやそれはねぇか。
あの仁王がだぜ?
そんなことが万が一あったら槍でも降ってくるっつーの。
「「「キャー!」」」
「部長!?」
「大丈夫ですか!」
「ん?」
俺が一人の世界に入って考え事をしていると
隣のコートが騒がしくなった。
「なにかあったのか?」
「部長が倒れとる・・・」
「まじ!?」
「大丈夫ですか?」
「マネージャー、バケツに氷水入れて持って来い!」
「部長、立てますか?」
俺は仁王と一緒に隣のコートへ向かい、
柳の姿が見えたため、彼の隣に立った。
「柳、部長どーしたんだよ。」
「おそらく捻挫だろう。
重傷ではないといいが・・・」
「でも、すぐ立ち上がれてねぇし・・・
大丈夫かよ?県大会って来週だろぃ?」
「まあ、県大会くらい部長抜きでも戦えるじゃろ。」
「確かにそうだな。」
「そりゃそうだけどよー・・・」
この前のミーティングで部長が、高校でテニスできるのはもうちょっとだから
地区予選から本気でやりたいって言ってた。
それなのに、このままじゃ・・・
「丸井、呼んで来い。」
「え?ちゃん?なんで?」
突然仁王に名前を呼ばれ、はっと我に返る。
だが、言われている意味が全く理解できず
疑問いっぱいの顔を彼に向けると「いいから早く行け。」と言われる。
「いや、行けっつったってちゃんがどこにいるか・・・」
「が保健室にいる確率93%。」
俺のつぶやきに近い言葉の途中で、隣に立つ柳が言った。
「は?」
なんで柳までちゃんのこと知ってんだよ。
そう聞こうと思ったら、柳にまで
「は応急処置とテーピングができる。早く呼んで来い。」と言われたので
俺はしぶしぶコートを離れてダッシュで保健室へ向かった。
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ちょっと長くなりましたが・・・