あ、れ・・・?
「どうしたの、?」
私が何かそわそわしている様子を見て
真菜子が声をかけてきた。
今は2限目の授業が終わって、移動教室から帰ってきたところ
・・・なんだけど。
『・・・ない・・・』
「ん?なにが?」
『・・・ケータイがない。』
「まじ?学校には持ってきたの?」
『うん。たぶん、てか絶対理科室だ・・・』
さっきの授業中ケータイいじってたし。
そのまま机の中に置いてきたのかも・・・
「もう次の授業始まるけど、どうする?」
『んー、次なんだっけ?』
「えーっと・・・あ、現社だ。」
『よし、だったら取りに行こ。
誰かに見られたら嫌だし。
あとでノート見せて!』
しょーがないから、取りに行くか・・・
しゃーなしやで?
今回だけやからな?
次も取りに来てもらえると思うなよ?←
・・・はぁ、大人しく取りに行こ。
044 忘れ物。
あった!良かった〜v
さっきまで授業を受けていた教室に戻り、
机の中に、取り残されたケータイを無事発見。
誰にも触られてないみたいで、ほっと胸をなでおろす。
さっきまでは席が全て埋まりにぎやかだったのが嘘みたいに、
今この教室―――第2理科室はガランとしていて
この広い空間には私しかいない。
さーて、これからどうしよっかなー・・・
さっき授業開始のチャイムが鳴ったから
今から教室に戻っても、遅刻で怒られるだけだし。
屋上行こうかなー・・・
でも、今日は日差しが強くてちょっと暑そう。
やっぱ保健室にしようかな・・・
何気なく窓の方に近づいて外を眺めると
2階であるこの教室からは、窓の正面に体育館を見下ろせる。
端のほうにギリギリ見えるグラウンドでは
何年生かの女子が体育をやっているのが見えた。
そういえば次の授業は体育だったかな。
サボって寝すぎないようにしなきゃ
・・・・・・ん?
ふとグラウンドから正面の体育館へ視線を戻すと
体育館の裏のほうでチラッとなにかが動いたのが見えた。
今なんか見えたような・・・
誰かいる・・・?
ここからでは建物の死角になって、体育館裏は見えなかったが
窓を開けて少し身を乗り出すとなんとか見ることができた。
そこには体操服姿の女子生徒7、8人が、
1人の女子生徒を囲むようにして立っていた。
ちょっとこれは・・・まずい雰囲気かも。
窓を開けたことによって、彼女たちの声が2階の私のところまで届いてくる。
話している内容は聞き取れなかったが
声の調子からして、穏やかではないことは明らかだった。
あ、ちょっと・・・
―――――やばっ。
取り囲んでいる女たちのうちの1人が
なにか言いながら、その囲まれている女の子の肩を思いっきり押す。
その女の子は急に体を押されたことによって
思いっきり後ろの倉庫のようなところに倒れこんだ。
それによって倉庫の中ではいろんなものがぶつかりあって
モップや鉄の棒などがその少女に直撃する。
その様子を見て、倉庫の前に立つ女たちは笑っていた。
あの人たち・・・狂ってる。
1人相手にこんな大人数で・・・卑怯だっての。
倒れこんでいた女の子は、腕を押さえながらなんとか立ち上がり
取り囲む女たちになにか言っていた。
それを聞いた女たちの1人が、気に障ることでも言われたのか
目の前の少女のお腹を思いっきり蹴って
倉庫の中に再び倒れこませた。
ま、まじでやばくないか、この状況・・・
このままじゃ、あの人・・・
私はいったん窓際から離れて、隣の理科準備室へ向かう。
そこで割れたガラス器具などの入ったゴミ袋を持って窓のほうへ戻り
それを窓から下に落とした。(良い子も悪い子もマネしないでねv)
それから私は急いで窓を閉めて身を隠す。
数秒後にアスファルトとガラスのぶつかるガシャンという大きな音と
それを聞いたキャーという悲鳴
―――おそらくいじめていた女たちの声が
窓を閉めた2階のこの教室まで届いてきた。
思ったより大きな音がしたし。
なによりあの女たちの悲鳴はグラウンドまで聞こえたはず。
これで体育の先生が見に来るでしょ。
落ちた物の内容からして理科室から落としたのはすぐバレるだろうから
ここに長くいるわけにはいかないかも・・・
まあでも、落としたのはゴミなわけで
けっきょくいつかは下のゴミ捨て場に掃除当番が持っていくわけだから
その人たちに感謝してもらいたいくらいだ!←
私は理科室の暗幕(遮光の黒いカーテン)に隠れて、
カーテンに開いた小さな穴から、窓の外をのぞいた。
グラウンドからは案の定、先生が体育館のほうに向かってきていて。
ぎりぎり見えた体育館裏では
女たちが先生のかけつけてくる気配に気がついて
こっそり授業に戻って行った。
倉庫に倒れていた女の子も、
女たちがいなくなったあと先生に見つからないようグラウンドに向かう。
私はその様子を2階の窓からそっと見届けて第2理科室をでた。
そういえば、あのいじめられてた人
どっかで見たことあると思ったら・・・・・・
テニス部のマネージャーの人、だよね。
・・・しかも、前に手当てしたほうの人じゃなくて
たぶんその人にケガをさせたほうの人。
他の人にいじめられるから
自分も誰かをいじめちゃってる・・・ってことか。
あー、なんかフクザツー・・・・・・
私は深いため息をつきながら、重い足取りで保健室へと向かった。
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私もよく移動教室でケータイ忘れてました。