キーンコーンカーンコーン
4限目終了のチャイムが鳴る。
あーやっと終わった〜・・・
よしっ、ご飯ご飯♪
041 今月の家賃。
通り慣れた道のりを小走りで行く。
最初は道を塞いでるようにみえた積み上げられたダンボールも
今ではなんの障害にも感じない。
ほこりっぽい階段をひたすらのぼる。
今日―――火曜日は真菜子が部活のミーティングで一緒に食べれない日。
ブン太くんやジャッカルと食べてもいいんだけど
天気のいい日はいつも屋上で食べている。
階段を上りきって、たたんで置いてあるブルーシートを持ち
屋上へとつながるドアに手をかけた。
ドアを開けた瞬間に、私の頬をなでる生温かい風が
夏が少しずつ近づいていることを知らせる。
日差しもかなり強くなっていて
さっきまで暗い階段にいた私の目が慣れるのに少し時間がかかった。
目をしょぼしょぼさせながら屋上に出ると
ガスタンクによってできた日陰に誰かが座っているのが見えた。
その人物―――――におーやさんもこっちに視線を向けている。
『今日は早いんだね。』
「4限目からおる。」
『まーたサボったんだ。』
私はにおーやさんの近くにブルーシートをひいてその上に座る。
『そんなんでテスト大丈夫なの?』
「とは違うけぇ、なんとかなるぜよ。」
『・・・はいはい。』
まったく頭が良い人はいいよね〜
私なんて授業出ててもわかんないのばっかなのに
(とくに数学とか数学とか・・・あと数学とか。←)
「お、今日はパンだけじゃないんか。」
私がビニール袋から昼ご飯を出していると
それをにおーやさんがのぞきこんできた。
『うん。隣に住むお姉さまがくれたの。』
隣のお姉さまも一人暮らしをしていて、
晩ご飯のおかずが余ったりしたら、よくわけてくれる。
昨日の晩も野菜と肉炒めをおすそわけしてくれた。
「ほぅ。うまそうじゃの。」
『でしょー。あげないけどねー。』
なんか盗られそうだったから
お姉さまにいただいたタッパーはにおーやさんから離しておいて
とりあえずはポケモンパンに手を伸ばす。
「けち。」
『けちでいいもーん。
におーやさんだって自分のパン持ってるじゃん。
・・・・・・あ!』
袋を開けて、飛び込んできた光景に
私は思わず固まってしまった。
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いつものように"ポケモンパン"とやらを開けて
中に入っているおまけのシールを確認した瞬間、
が大きな声をあげた。
「どうした?」
叫んでから完全にフリーズしている彼女に声をかけると
キラッキラした目で満面の笑みを浮かべてこちらを向く。
『見て見て見て!におーやさん!これ!』
そう言って見せてきた、なんかキツネっぽいポケモンのシール。
・・・残念ながら俺には
こいつがこんなにテンションが上がる理由がわからん。
「これがどうしたんじゃ?」
『キュウコンだよ、キュウコン!
前から欲しかったんだよね〜v』
俺に見せ付けていたシールを自分の手元に戻して
ほんとに大切なものを見るような目で見つめている。
ほぅ、そんなに良いシールなんか・・・
俺は、いまだ"キュウコン"を見てうっとりしているに手を差し出す。
それを見ての頭上には"?"が飛び回っている。
「今月の家賃、もらってないぜよ。」
『あれ、そうだっけ?
・・・え、あ、あげないよ!これは!』
俺の差し出した手の意味がようやくわかったのか、
は"キュウコン"を俺に見えないように隠す。
クックックッ。
相変わらず面白いやつ。
「入居2ヶ月目にして早くも家賃滞納じゃのぅ。」
『うっ・・・・・・』
俺の言葉が胸に刺さったような仕草をする。
こいつはいっつもコントでもやっとんか・・・
そして『しゃーなしですよー・・・』とか言いながら
さっき隠したタッパーを出してきて
中の野菜炒めみたいなもんをお箸で半分にわけている
―――――ご丁寧に片方の山からピーマンをもう片方の山へ移しながら。
そして、ピーマンなしの山をタッパーのふたのほうに移して
ピーマンだらけのタッパーと箸を俺に渡してきた。
『これ、今月の家賃ってことで勘弁してください。』
「・・・お前、ピーマン食べたくないだけじゃろ。」
『そ、そんなことないって!
におーやさんがピーマン好きっていう噂聞いたから
優しさだよ、優しさ!』
「・・・まあ、そういうことにしとくぜよ。」
ピーマンが嫌いとか子供すぎじゃろ。
ほんとにコイツは面白いのぅ。
『あ、あと箸は1本しかないんで食べ終わったら返してください。』
俺が受け取ったおかずを食べていると、が思い出したように言う。
俺との間接キスを気にしないところ・・・
あいかわらず俺のことは"そういう対象"じゃないってことか。
手元のピーマンだらけのタッパーを見ながら
ふっと笑いがこみ上げてくる。
チラッとの方を見ると、なんにも気にしてないような顔で
美味しそうに"ポケモンパン"を頬張っていた。
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ピーマン嫌いのちゃん。