5月の第3木曜日。
そうです、木曜日といえば
恒例の委員会当番の日です。
かくいう今日も例外ではなく
ポケモンパンを食べてダッシュで保健室へ向かう。
今日こそはうざみより早く到着するために。
『失礼しまーっす!』
037 憧れの人。
「さんお疲れさま。」
「遅ぇぞ、くそちび。」
かけられた声がひとつでないことにがっくりと肩を落とし、
しぶしぶ保健室へ入る。
げー、今日も負けかよ。
こいつ昼ご飯ちゃんと食べてんのかな・・・?
うざみはソファに寝転んだまま
私のほうに視線を向けることなく雑誌をペラペラめくっていた。
『なんの雑誌読んでんの?』
「"月刊サッカーマガジン"。」
『ふーん。そーいえばサッカー部だっけ。』
うざみの近くまで行って、彼が見ている雑誌をのぞきこんだら
知っている顔が載っていた。
爽やかな笑顔でボールを持った少年の写真。
へぇー、こんなん載ってんだ。
『あ、翼じゃん。』
「え、お前、翼さん知ってんの!?」
私が無意識につぶやいた名前にうざみが反応する。
いやー、知ってるも何も・・・
『うん。兄貴だし。』
「はぁ!?お前・・・は?まじ?」
翼が私の兄だということにそーとー驚いてるのか
今まで寝転んでいたのに、ソファに座りなおして
私の顔をじーーーっと穴が開くんじゃないかってくらい見つめてくる。
『うん。""翼でしょ?ほら、名字も一緒じゃん。』
「いや、そうだけど・・・だって、あの"翼さん"だぜ?」
『そんなすごいの?翼って。』
私はきょとんとした顔をうざみに向ける。
小さい頃からサッカーやってるのは知ってるけど
そんな有名だったの?
「すごいなんてもんじゃねーって!
高校1年生から超強豪のレギュラーとして活躍してたし
今年の正月の全日本高校選手権で2年生エースとして優勝に貢献してて
俺そのとき会場にいたんだけど、翼さんだけなんか格が違ってたんだよ!
しかも、もうJリーグは当然だけど海外チームからも声がかかってて
今度のオリンピック代表にも確実に呼ばれるって言われてるしさ!
それに・・・」
『ふーん。私にとってはただのバカ兄貴だけどねー。』
うざみが、なんか見たこともないくらいヒートアップしてきたから
途中でさえぎっといた。
テンション上がりすぎだよ。
ちょっと怖ぇーよ。
「翼さんのことバカ兄貴なんて言うなよ。
お前なんかが馴れ馴れしく呼んでいい人じゃねーって。」
『馴れ馴れしくって・・・いや、兄貴だからね。』
「ほんとにあの人はすげーんだから!
俺の唯一の憧れの人なんだよ。」
『・・・その"憧れの人"の可愛い妹である私を、もっと丁重に扱うべきでは?』
「それとこれとは話が別だっての。」
『いや、同じだっての。』
そう言おうとしたら保健室のドアが控えめに開いて、
女の子2人組が入ってきた。
そして、恒例ながらうざみを見て小声できゃーきゃー言ってる。
来ましたか。
今日も始まりますよー、うざみタイム。
その女の子たちを皮切りに、今日も保健室には多くの生徒がやってくる。
絶対、保健委員ってこんなに忙しくないはずだって・・・
そんな毎週毎週、生理痛にはならないっての!
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翼は実はすごい兄貴です。