明日から、いよいよゴールデンウィーク。
って言っても、旅行するとか派手な予定はなく。
バイトしたり、真菜子と遊んだりしてのーんびりすごす予定。
実家にくらいは帰ろうと思ってるけど・・・
あ、でも東京とか行ってみたいな。
018 困ったちゃん。
学校が終わってからバイトに行って、いまはその帰り道。
結局、舞沢先生の弟さんのスポーツジムでバイトをしている。
ほとんどの時間は受付にいるけど、
たまに舞沢さん(弟)のテーピングの手伝いをしたりしている。
舞沢さんめっちゃかっこよくて、めっちゃ優しいし、
いろんな人と会えたりして楽しいし。
かーなーり、良い職場ですv
今は週3、4日入ってるけど、
テスト週間なんかは休ませてくれるらしい。
赤点回避に必死な私としては、それはかなり有り難かった。
にゃーぁ
―――――ん?
いま、ネコの鳴き声が聞こえた?
マンションに向かっていた足を止め、あたりを見まわす。
でも、ネコの姿は見当たらなかった。
気のせい、かな・・・?
そう思って、ふたたび歩き出そうとした、ら・・・
キィー・・・キィー・・・
耳を塞ぎたくなるような高音。
ほら、あの黒板をつめでひっかいたような。
そんな不快な音の後、小さくガシャンという音がした。
私は、なんとなーく気になって音のしたほうを見た。
《ダイキ工業株式会社》
音が聞こえたのは、そう書かれた工場のほうから。
もう夜の11時も近いし、工場の電気は消えている。
だったら、なんでそんな音が・・・?
も、もしかして・・・幽霊?
い、いやいやいや!
そ、そそっそんなはずはないって!
にゃーぁ
ほ、ほら!"にゃーぁ"って!
ネコだよ、ネコ!
にゃーぁ
キィー・・・キィー・・・
やっぱねー。
最初から、そーじゃないかって思ってたんだよね!
工場の中に、ネコがいただけのはなし・・・
にゃーぁ
キィー・・・キィー・・・
にゃーぁ
・・・なんか、やけにしつこく鳴いてない?
私は周りをきょろきょろ見回して、誰もいないのを確認してから、
工場の敷地内に入っていった。
(不法侵入とか思われたら、いやだしねv)
工場って言っても、小さい工場で、お金持ちの人の家くらいの大きさ。
入り口はシャッターが閉まっている。
にゃーぁ
キィー・・・キィー・・・
工場に近づくたびに、音が大きくなるから、
ネコは工場の中にいるんだろう。
にゃーぁ
キィーキィー
シャッターの前に立つと、中から聞こえる音がいっそう大きくなる。
まるで、なにかを訴えているみたいに。
・・・助けて、ほしいのかな?
ネコ語なんかわかんないけど、
《閉じ込められたよー、助けてー》って言ってる気がした。
工場の中で昼寝でもしてたら、鍵閉められちゃったのかな?
おバカさんだなぁ〜、キミは。
ま、明日になったらおじさんが来て開けてくれるよ。
もう寒くないし、風邪もひかないでしょ。
明日まで大人しく待ってなよ〜。
一応、窓の鍵とかも見てみたけど開いてなかったし。
私が助けてあげることはできなそーだった。
もう夜も遅いし私も帰ろう、と思ってきびすを返・・・そうとしたんだけど。
明日からゴールデンウィークじゃね?
ってことは、明日も工場休みじゃね?
ってことは、あのネコちゃん出れなくね?
ってことは、ご飯も食べれなくね?水も飲めなくね??
ってことは・・・
まじでやばくね?
シャッターのほうをよく見ると、張り紙がしてあって、
《5月2日〜8日まではゴールデンウィークのためお休みさせていただきます。》
・・・だってさ。
今日が5月1日だから、明日から1週間あの工場が開くことはない。
つまり、1週間はあのネコちゃんは出られないってことで・・・
1週間飲まず食わずってさー・・・
生きてられるのかな。
人間なら、たぶんムリだよね。
にゃーぁ
キィーキィーキィー
にゃーぁ
・・・どうしよう。
とりあえず、シャッターが開かないかどうか確認。
うん、やっぱり開かない。
2〜3センチくらいはなんとか開けることができたけど、
それだけじゃネコは出れないし、手も指先くらいしか入んない。
あー、困ったなぁ・・・
どうしよー・・・
―――――あ、
良いこと思いついちゃったかも。
我ながら名案!
私はシャッターを力いっぱい上げて、あいた下のすき間に石をつめた。
―――これで、常に3センチは開いた状態をキープできる。
それから、いったん工場から離れてスーパーと100均へ。
魚肉ソーセージとおぼんを買った。
そして、ふたたび工場に戻って、
魚肉ソーセージを小さくちぎって、シャッターの下のすき間から投げ入れた。
クチャクチャ聞こえるから、たぶん食べてくれてるんだろう。
それから、おぼんに持っていた水を直接入れて、
これもシャッターのすき間から中に入れた。
よし、これでなんとかなるかな。
げっ、もう11時半じゃん!
早く帰ろー。
ネコが水を飲む音を聞いて少し安心してから、私はマンションに向かって歩き出した。
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見捨てられない優しいちゃんです。