放課後、私は病院の待合室で自分の名前が呼ばれるのを待っていた。
「さーん。1番の部屋にお入りくださーい。」
『あ、はい。』
017 イケメン先生。
私は少し前から、この病院に通っていた。
病院っていっても、用があるのは整形外科。
風邪をひいたわけでも、体調が悪いわけでもない。
(頭は悪いけど。←)
この前、久々にバスケをして。
ほんとはかるーくやるつもりだったんだけど、
やり出したら、いつのまにかちょっと本気になってて・・・
おかげで、古傷の左腕を少し痛めてしまった。
あぁ、やりすぎた・・・
看護師さんに促されて診察室に入ると、1人の男の人が座っていた。
手元のカルテから目線を上げて、私のほうを見てにっこり笑う。
「さん、こんにちは。」
『舞沢先生、こんにちは〜。』
いつもお世話になってる舞沢先生。
若くてかっこいいけど、整形外科界ではちょっと有名なすご腕の医者らしい。
「さん、腕の具合はどうだい?」
『ぜんっぜん大丈夫です!もう治りました!』
「・・・さん、これ自分でテーピングしたでしょ?」
舞沢先生が、私の左腕を診察しながら言う。
げげ・・・やっぱ、バレるか。
『あ、わかっちゃいますー?
でも、けっこう上手にできてるでしょ!』
「まあ確かに前より上手くなってるけど・・・
なんで俺のテーピングをとったのかな?」
『そ、それは・・・』
舞沢さん、微笑みが怖いです。
顔が整ってるぶん、怖さが尋常じゃないです。
・・・言えない。
体育で人に見られるのが嫌でとったなんて、言えない。
そもそも、体育をしたなんて言えない。
「まさか、体育をしたなんて言わないよね?」
『そ、そそ、そそんなわけ、ないじゃないですか〜。
やだなー、もう舞沢先生ってば。』
「・・・ケガは悪化してないみたいだし。
手を使う競技ではなかったみたいだね。」
あぁ、もうバレてるんですね。
この人にはなんでもお見通しなんですね。
はい、その通りです。
幅跳びとハードルしました。
『はい、すみません・・・』
「まあ、もうだいぶ良くなってるし。
あと1週間くらい"テーピングして"、"安静にして"たらもう大丈夫だよ。」
『はい、肝に銘じておきます・・・』
仕方ないから、今週の体育は、長袖の上着でも着てテーピング隠そうかな。
真菜子に見つかると心配されて、大変そうだからね。
まー、でも体育はやります、ごめんなさい。
「それにしても、ほんとにさんはテーピング上手だね。
1回見ただけで、ほぼ完璧にできてたし。」
『ほんとですか〜?ありがとうございますv
まあ、前から自分でやってましたし、
こーゆーの見て覚えるのは得意なんですよね。』
『勉強とかはサッパリなんですけどね。』
そう苦笑いすると、舞沢先生はハハと笑って、「うん、そんな感じする。」と言った。
・・・何気に失礼ですよ、先生。
「でも、その腕のテーピングは右手だけでしたんだろ?」
『そうですよ〜。やりにくいですけど、もう慣れました。』
「しかも、利き手は左だよね?」
『はい。でも、もうほとんどのことは右でできますもん。
テーピングも余裕です。』
「そっかそっか。・・・あ、」
舞沢先生がカルテを書いていた手を止め、顔を上げた。
そしてそのまま、私の顔を見つめてくる。
『・・・?』
なんだろー?
なんかあった感じ?
「さん、いま部活は?」
いきなり、どうしたのかと思ったら・・・部活?
『してないですよ?』
てか、してたら先生怒るでしょ。
体育でも怒るんだから。
「じゃあ、アルバイトとかは?」
『いまはしてないです。
でも、もうすぐなんか始めようと思って、
いま良いのないかな〜って探し中です。』
「ほんと!?それは良かった!」
『え?』
急に舞沢先生のテンションが上がって、ちょっとびっくりした。
なんかテンション上がる要素、あったかな・・・?
『なにが良かったんですか・・・?』
「あぁ、実は俺の弟がスポーツジムでトレーナーやってるんだけどさ。
生徒の数はどんどん増えてるのに、
受付の子が産休に入ったりして、人手が足りなくて困ってるみたいなんだよ。
受付の事務以外にも、テーピングができる子だと、弟も助かると思うし。
さんならぴったりだと思ったんだけど、どうかな?」
『いや、テーピングができるって言っても、
人様にできるようなものではないですよー・・・』
「そのへんはちゃんと弟が教えてくれるって。
それに、1回見ただけでこんだけできるんなら、
本気で習えば、すぐできるようになるよ。」
『そうですかねー・・・』
「で、どうかな?やってみない?」
『んー・・・』
スポーツジムの受付、か・・・
なんかかっこいいな。
うん、やってみたい!(単純)
『んー、やってみたいです。』
「ほんと!?ありがとう!
弟が喜ぶよ〜。
さん可愛いし、ますます生徒が増えそうだしね。」
『そんなことないですよ〜。』
「詳しい話はあとでいいかな?
俺、いま一応勤務中だから。」
舞沢先生はいたずらっぽく笑って、ウインクをした。
そして、私の後ろに視線をやって苦笑いをしていた。
後ろを振り返ると、看護師さんがせかすような目で舞沢さんを見ているのがわかる。
『あ、はい。』
「これ、俺の連絡先ね。まぁ、俺から連絡するけど。」
そう言って、舞沢先生はアドレスと電話番号の書いた紙をくれた。
先生から連絡するって・・・
あ、私の電話番号とかはカルテに書いてあるからわかるのか。
なんか個人情報的なアレで、職権乱用な気がするけど・・・
ま、いいんだけどね。←
『はい、待ってます。ありがとうございました。』
「お大事に。くれぐれも、安静に!」
『はーい。』
私は苦笑いしながら、診察室を出た。
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高1・5月編突入です。