毎週木曜、昼休み。



―――――保健委員の当番の時間。








私は、急いで昼ごはんを食べて、保健室に向かった。





昼ごはんくらい、ゆっくり食べたいから


当番は放課後が良かったのに・・・








あいつのせいで。



勝手に決められちゃったんだもんな・・・










016 木曜日、昼休み。








「遅ぇぞ。」


保健室のドアを開けて、1番にかけられた言葉がこれ。





いやいやいや。


なんか忙しそうに、委員会の仕事をしてんなら文句言われるのもわかるけどね?

ソファーに寝転がって、くつろいでるだけじゃん?



ほんと、いやなやつ





―――――当番のペアの相手、宇佐美 孝裕(うさみ たかひろ)。










『すみませーん。

 宇佐美くんがいるところに行かなきゃいけないと思うと、足が重くて重くて・・・』

「あー、確かに重そうだな。痩せれば?」



う、うぜー!

こいつに嫌味は通用しないのか!?

こいつ、宇佐美じゃなくて、うざみだ、うざみ!



『うざみくんからのストレスで、自然と食事制限ができてます。』

「そりゃー良かったな。感謝しろよ。」

『アリガトウゴザイマス。』





「相変わらず、あなたたちは仲良いわね〜。」


私とうざみのやりとりを聞いていた保健の先生が、笑いながら言った。



いやいやいや。

どこをどー聞いたら、そういう考えになるんですか。

こいつ、私に文句しか言わないっすけど!?





『そんなわけないじゃないですか。

 うざみと仲良いとか、冗談じゃないです。』

「そーそー。

 くそちびがつっかかってくるだけですよ。」



く、くそちび・・・?

こいつ、まじでむかつく!





私がうざみを思いっきりにらんだら、あいつは鼻で笑いやがった。



あー・・・プッチンプリン食べたい。


・・・間違えた。

あー、プッチンしそー。


むーかーつーくーーー。





こいつ、なんで私と当番にしたんだよ。















保健委員の当番をするのは今日で2回目。

1回目の先週も、私がきたときにはもううざみは保健室のソファでくつろいでいた。


そんで「遅ぇぞ。」って・・・



あーぁ、今日はうざみのやつより早く来ようと思ったのに。

いつかあいつに『遅ぇぞ。』って言ってやるわ。



結局先週は、別に手伝う仕事もなくて、うざみと嫌味を言い合っただけですぐ帰った。





なにしに保健室いったんだろー、って思っちゃったよね、うん。












「でも、先週はあなたたちが帰ったあと、生徒がたくさんきて大変だったのよ〜?」

『え?』


先生がにこにこしながら言う。



なんでだろ?

私たちがいたころは、生徒なんて2、3人しか来なかったのに・・・





「みんな"宇佐美くんは?"とか"さんは?"とかって聞いてきて。

 もう帰ったわよ〜って言うと、残念そうに帰っていったわ。

 モテるのね〜、あなたたち。」



あー、なるほど。

保健室に来た女の子が、ソファの上のうざみを見て、顔赤くなってたから

うざみが保健室にいるって言いふらしちゃったんだろうね〜。



ま、私もクラスの子に「宇佐美くんの当番っていつか知ってる?」って聞かれたしね・・・

委員会のこと思い出したらイライラしてきたから

『あー、ごめん、わかんない。』って答えといたけど。





うざみのほうを見ると、すごい不機嫌そーな顔してた。


モテるって言われて、そこまで嫌な顔しなくても・・・

よっぽどちやほやされるのが嫌なんでしょーね。








『今日が楽しみですねvよっ、色男!』



きみの当番が木曜の昼休みだということは、先週でバレた。

今日は間違いなくたくさんの女の子がうざみに会いに来るだろうよ。



私がにやにやしながら言うと、うざみににらまれる。


さっきの仕返しとばかりに、鼻で笑ってやった。







「"色男"とか死語だろ。時代に置いていかれてますよ、ばーさん。」

『一周まわって最先端だし。流行ってのは10年周期で繰り返されるんだよ。

 そんなことも知らないのかね、うざみ ばかひろくん。』

「お前にばか呼ばわりされる覚えはねーよ。赤点ちゃん?」


『げっ、なんでそれ知って・・・』





入学してすぐに行われた学力診断テスト。

英語は余裕でできたけど、その他の教科はずたぼろだった。


とくに数学は赤点で、課題をたんまり出されていた。







「成績優秀者と赤点のやつは掲示板に貼りだされんの。

 お前外部生のくせに赤点とか、どーやって入学試験通ったんだよ。」

『いやー、私にもわかんない。』



真菜子にも、ジャッカルにも、幸村くんにも、におーやさんにも同じこと聞かれた。


でも、1番不思議に思ってんのは私だからね・・・










『てゆーかさぁ。なんで当番の時間勝手に決めたの?』

「だって俺、放課後部活あるし。」

『いや、そーゆー問題じゃなくて。』

「曜日はなんとなく。」



どうせなら、真菜子がいない火曜日が・・・


って、そうじゃなくて!

なんで私の名前を勝手に書いたのかが問題なんですけど。


なんで、あんたのペアが私なんだよ・・・








女の子にめっちゃ誘われてたじゃん。

取り合いだったじゃん。

ハーレムだったじゃん!




ま、それが嫌だったんだろーけど。


ずっとキャーキャー言われるの、めんどくさそうだし。


幸村くんとか見てると思うもん。

大変そーだなって。



んで、自分に興味がなさそーな私とペアになったんでしょうねー


実際、第一印象が最悪だったから、うざみをかっこいいとは思ったことないし。

興味ないってか、むしろ嫌いだけどさ。





人気者のうざみくんには、1mlくらい同情してるから

百歩譲って入学式の日のあの態度は許してあげてもいい。


でも、勝手に私の名前を当番表に書くんじゃねーよ!

私の意見はどこにいった!?















「失礼しまーす・・・」



私が、うざみを見ながらため息をついていると女の子3人組が保健室に入ってきた。


そして、宇佐美を見て顔を赤らめ、こそこそ話をしている。



「あ、宇佐美くんいるよ///」
「かっこいいね〜///」
「来て正解だったね///」





あー、まじでうざみ目当てですか。

こんなやつのどこがいいんだか・・・





うざみのほうを見ると思いっきり顔をしかめていた。



いやいや、あからさまに嫌がりすぎでしょ。

顔に出すぎ。








「あのー、絆創膏もらえますか?紙で切っちゃって・・・///」


女の子の1人が、先生がいるにも関わらず、まっすぐうざみだけを見て言う。

確かに、彼女の指には血がにじんでいるように見えた。





「おい、くそちび。」


うざみがソファの上で寝転んだまま、私を呼んだ。

声がさっきよりかなり不機嫌になってる。



八つ当たりはやめてください。





「絆創膏とってやれ。」

『私はくそちびではないのでとりません。』



先生は私たちのやりとりを優しい微笑みで見てるだけだし。

女の子たちは、相変わらず赤い顔でうざみを見つめている。



「・・・チッ。

 、絆創膏。」





『私は絆創膏ではないのでとりません。』って言おうかと思ったけど。

まー、初めてまともに名前呼んだし。


今回は仕方ないからとってやろう。










私は、救急セットがしまってある棚に近づいて、絆創膏と消毒セットを手に取った。

そして、それをうざみの手にむりやり持たせる。



『はい、どーぞ。一応、消毒もしてあげてね。』

「はぁ?消毒なんかお前がやれよ。」





いやいやいや。

ムリムリムリ。


だって目の前の女の子たちが、私のこと、

"なに、この宇佐美くんと仲良さそうな女"みたいな目でみてくるんだもん。



敵意丸出し?

いや、私はきみたちの敵ではない!


・・・まあ、味方でもないけどさ。



ともかく!


これで私が消毒しようものなら、間違いなく彼女に恨まれる・・・








「宇佐美くん、さん。

 悪いんだけど、どっちかひとり職員室への用事を頼まれてくれないかしら?

 この書類なんだけど・・・」



私とうざみが無言のにらみあいを続けていたら、先生が1枚の紙を私たちに見せた。





『あ、私いきまーす。』


チャンスとばかりに、私はそれを先生から受け取って、保健室の出口に向かう。



これ以上、あの子たちの視線には耐えられないっての・・・





「あ、おい!待てよ!」


ドアの前まできた私に、後ろからうざみが呼び止める。

振り返ると、さっきまでソファで思いっきりくつろいでたのに、今は上体だけ起こしていた。





『なに?私がいないと寂しくて死んじゃう?

 よし、君はうざみじゃなくてうさぎちゃんだ。

 でも大丈夫!そこの女の子たちがいるじゃないか。

 ってことで、ちょっと行ってきまーす。』



私は早口でそう言ってから、職員室へ颯爽と向かった。















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宇佐美くんはモテモテです。