0−15





15点ビハインドで、ゲームは再開された。











015 下手くそは?















「遅いなぁ、ちゃん・・・」





ケータイをポケットから出して画面を見ると、"02:16"という表示。



メール、着信はゼロ。





連絡もなしに15分も遅れるなんて・・・



寝坊かな?

いや、昼前にメールしたし、それはないか。



ってことは・・・?





道に迷ってるとか?


いや、しつこいナンパにつかまって困ってるとか??


まさか、もしかして誘拐!?





人の思考というのは、悪い方向にばかりいくもので。


俺は気づいたら、ちゃんのマンションに向かって走りだしていた。



あー、やっぱり最初っから迎えに行けばよかった・・・










集合場所である駅からマンションまでは1本道。


だから、行き違いになることはまずないだろう。



あー、ちゃん・・・無事だよね?


昼寝しちゃってたりするだけだよね?










あっ、信号赤になっちゃったよ・・・



俺は仕方なく、走っていた足をとめる。


マンションも、もう見えてるってのに・・・





「さっきバスケコートにいた子、見た?」

「見た見た。めっちゃ可愛い子だったよね〜」

「うん!どっかのモデルかな〜?」





立ち止まっていた俺とすれ違う女の子たちの会話が聞こえてきた。








"めっちゃ可愛い子"って、もしかしてちゃん・・・?

バスケコートって、そこの公園のとこかな?



俺は信号が青になるのを確認すると、目的地をバスケコートに変えて走り出した。










あれ、やっぱりちゃんだ・・・・・・





バスケコートが遠くて顔がはっきり見えないけど。



でも、確信を持って言える。

あれは、ちゃんだ。








ちゃんが無事そうなのを確認して、ほっと胸をなでおろす。



でも、バスケコートに向かって走る足は止めない。










ちゃん無事だったんだね。


誘拐されたわけじゃなかったんだ〜



あー、良かった・・・





でも、なんでちゃんがバスケしてんの・・・?



しかも、若い男3人と・・・子供、だよね?

どーなってんの??










コートのすぐそばまできて、やっとちゃんの顔がはっきり見えた。



バスケコートはフェンスで囲まれているからフェンス越しだったけど。





今まで見たことがない、真剣な顔をしている。


でも、どこか楽しそうな顔。


一筋の汗が、ちゃんのほほをつたって落ちた。










ちゃん、すご・・・・・・





ちゃんのスピードが速すぎて。

男たちはダッシュしても、ドリブルをしているちゃんに追いつけていない。

そしてそのままレイアップシュート。



相手ボールでゲームが再スタートしても。

パスコースがあらかじめわかっているかのように。

いとも簡単に相手のボールをパスカット。



ボールを持った瞬間に加速するスピード。


自在なドリブルは、ボールがちゃんの手とくっついてるんじゃないかって思っちゃうくらい。
(ほら、ヨーヨーみたいにさ。)


自分よりも大柄な男3人をフェイントと切り返しで簡単に抜く。

そして、すばやくシュートの体勢に。


1度は抜かれたがディフェンスに帰ってきた男がシュートブロック。


それを見て、落ち着いて味方の少年にラストパス。




少年は確実にシュートを決めた。










ちゃん、うますぎ・・・・・・





コートの外にいる1人の小学生が、シュートが決まるたびに得点板をめくっている。







16−17、か。





え、負けてる・・・?



負けてるなんて考えられない内容なんだけどね・・・
















+++++++++++++++++++++++++















やっと1点差のところまできた。





流れはいま、完全にこっち。








だけど、


20点先取のこのゲームで。


相手は17点だから、あとスリー(スリーポイントシュート)を1本決められたら負ける。



気は、抜けない。







小学生'sは、疲れてはいるけど頑張っている。


私も体力的には、まだまだ余裕。




けど・・・







私は右手で、左腕をぐっと押さえる。





・・・・・・もう、シュートは打てないな。





ま、今までさんざん私にやられたんだから。


私を徹底マークしてくるでしょ。



そしたら小学生'sはフリーになるし。


そこにパスすればいいわけだから。





あと4点なら、いける!















パスコース、見え見えだし・・・

よっと。



かるーくパスカットして、適当にフェイントはさみながらドリブルする。

そしたら勝手にディフェンスはいなくなってくれる。


いちおー、シュートの構えをしたらディフェンスがひきつけられてくれるから。


ゴール下で待つ味方にパス。


よしっ、ナイシュー!

あと2点ね。










遅いドリブルー。

隙だらけだし・・・

えいっ。


ドリブルをかるーくスチール(ボールを奪うこと)して、前を走る味方にロングパス。



落ち着いてレイアップシュートを決めてくれた。



よし、20−17!


私たちのしょーりっ!








「やったーっ!」

「俺たち、勝ったぞー!」

「よっしゃー!」



小学生'sはぴょんぴょん飛び跳ねて喜んでいる。



それを見て、私はひと安心。





「ありがとう、姉ちゃん。」

「姉ちゃんのおかげで勝てたよ!」

『ううん、君たちが頑張ったからだよ。』



やっぱり、正義は勝つのだよ。










高校生'sは地べたに仰向けになって倒れこんだ。

激しく肩を上下させて、そうとう疲れているみたい。


うん、まだまだだね。








『あのさー、これからこの子たちがここ使うから邪魔なんだよねー。』


高校生'sに近づいて、上から彼らを見下ろす。





『あー、下手くそな人はどーすんだっけ・・・あなたが言ってたよね?』










『"下手くそはさっさと消えな。"』



なんの感情もこもっていない冷たい目で彼らを見ると、高校生'sはしぶしぶコートから出て行った。







『もうけんか売るなよー。』


彼らの後ろ姿にそう声を投げかける。





高校生'sを目で追っていると、フェンスの向こうに1人の男が立っているのが視界に入った。


その男もこっちを見ていたため、自然と目が会う。















あッ・・・・・・やば。



私は急いで、その男に駆け寄る。





『あー、キヨ!ごめん!ほんっとごめん!』










キヨの顔をちらっとのぞき見る。



・・・めずらしく、にやついてない。←

これは、本格的に怒ってるかも。





『これには理由がいろいろありまして・・・

 いや、言い訳はよくないな。素直に謝ります。

 ただただ、すみませんでした!』





時計を見ると2時42分だった。

うげっ、42分の遅刻・・・ありえねー・・・


連絡もしてなかったし、そりゃ怒るよね・・・





ちゃん・・・」


黙っていたキヨが口を開く。


『な、なにかな・・・?』


絶対怒られるよ・・・

すみません、ごめんなさい、もうしません、許してください!







「俺、感動した。」


ほら、怒られ・・・た?



『・・・へ?』



予想外のキヨの言葉に、思わず変な声がでる。




ちゃん、バスケ上手いんだね!

 興奮しちゃって目が離せなかったよ。」


『あ、ありがとう。』


怒ってないの・・・かな?

連絡もせずに遅刻したのに・・・



『怒って、ないの?』

「あぁ、心配はしたよ?

 でも、いまはちゃんの新しい一面が見れて、俺は嬉しいの。」


キヨはにっこり笑って「ラッキーv」って言った。


・・・ほんとに怒ってないんだ。





「それより、これからどーしよっか?

 汗かいてるし、着替えてくる?

 俺、ここで待ってるよ。」


『あー・・・私の家、こない?』

「え?///」

『いやー、シャワーも浴びたいから、時間もかかると思うし・・・

 お菓子とジュースくらいだすから、ね?』



また家で待たせちゃうことにはなるけど。


仕方ないから、とっておきのプチリッチなお菓子出してあげるよ!

8個入りで300円くらいするやつ!



『すぐ準備して、駅のほういくから!』


キヨがうなずいたので、とりあえず2人で私の家に行くことになった。










「おねーちゃん!」



私がキヨのところへ行こうとすると、後ろから声をかけられる。


振り向くと小学生'sがいた。





『ん?どした?』


「おねーちゃん、ほんとにありがとう!」

「また俺たちと一緒にバスケしてね!」

「今度、さっきのフェイントとか教えてよ!」



少年たちのきらきらした目が私に向けられる。


あぁ、まぶしい。

若いってすばらしい。←





『ん。わかった。約束ね〜』



そう言って4人で『ゆーびきーりげーんまーん・・・』と歌って指きりをした。




『あ、足は大丈夫?』


私はケガをした少年にきく。

ゲームに勝ったときに飛び跳ねて喜んでたから、大丈夫だとは思うんだけど。


「うん!もう大丈夫!全然痛くないよ!」

『そっか、良かったvでも、痛くなったら保冷剤かなんかで冷やすんだよ?』

「うん、わかった!」

『よしv』

私はその少年の頭をなでなでしてから、『ばいばーいv』と言って彼らと別れた。















+++++++++++++++++++++++++










「お邪魔しまーすv」

『どーぞー。』



公園で少年たちと別れて、俺はちゃんと2人で彼女のマンションに帰ってきた。





ここに来るまでの道で、遅刻した事情とかをきいたんだけど。


まあ、予想どーりってカンジ?

やっぱ良い子だよ、ちゃんはv







『あ、そのへん座ってて。ジュースだすから。』

「あ、気使わなくていいからねー。」





きれいな部屋。


っていうか、あんまり物がない。

もっと、ごちゃごちゃした部屋のイメージだったけど。←





『はい。これ、てきとーに食べて、飲んでね。

 あ、待ってる間ひまだろーし、ゲーム出すね。』



ちゃんは、机の上にジュースとお菓子をだして、テレビのところにいってごそごそしている。


あー、なんかいま、カップルみたいでいいな・・・///





『マリオカートでいいかな?』

「うん。ありがとう。

 あとはわかるから、早くシャワーいっておいでよ。」

『あ、うん。ダッシュでいってくるから!』


そう言ってちゃんは、バスルームのほうに小走りでいった。

ははっ、ちゃんやっぱ可愛い〜///








でも・・・・・・





一人暮らしの部屋に男を入れるなんて。

しかも、シャワーでしょ?

普通、期待しちゃうよね、この状況・・・


俺にそこまで気を許してんのかなー?

それとも、そもそもそんな対象で見られてないのかなー?

そういうことに鈍いのかなー・・・?





まあ、今のところは"友だちとして"気を許してくれてるってことだろうね。





どうやって男として意識させようかな・・・

いや、でもこの友だちポジションもおいしいからね。








俺はすこし悩んでから、いま悩んでも仕方がないと思い

とりあえずゲームのスイッチを入れた。















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キヨとの久々絡み〜。
安定の仲良しです。