本鈴が鳴って5限目の授業が始まる。
さっきまでにぎやかだった校舎も、一気に静まり、今聞こえるのは体育をしている声だけ。
だけど私は、教室ではなく屋上にいた。
013 春の陽射しの下で。
毎週火曜日の昼休みは、真菜子はバレー部のミーティングがあるらしく、お昼は一緒に食べない。
先週はゆきネエとれいちゃんと学食にいったけど、今日はどうしようかなー。
ブン太くんとジャッカルと食べようか・・・
あ、そういえばこの学校って屋上あるのかな?
アメリカにいたころは、昼休みはいつも屋上にいた。
そのときのことを思い出したら、なんだか無性に屋上にいきたくなった。
4限目終了のチャイムを聞いて、私は昼食のポケモンパンを持って階段へ向かう。
4階までは授業で上がったことがあるけど、さらに上へと続く階段は初めて歩く。
通る人があまりおらず、掃除もされていないのか階段にはほこりがたまっていた。
階段の途中の少し広くなったフロアでは、ダンボールが山積みされていて、先に進むのを阻んでいる。
この様子じゃ、誰も屋上に出入りしてないみたい。
ってことは鍵かかってたりするのかも・・・
ダンボールのすき間をぬって、更に上へと続く階段をのぼる。
見えてきた屋上へと続くドアは少しさびかけているみたいだった。
鍵がかかってるかもしんないし、そもそもさびついて開かなそーなんですけど。
ま、そんときは力ずくで・・・
ガチャガチャガチャ―――カチャッ
あ、開いた・・・
思いっきりノブを回していたら、急に軽くなってけっこう簡単にドアが開いた。
屋上にはなーんにもなかった。
ま、そりゃそーだよね。
屋上には普通なんにもない・・・
って思ったけど。
隣の校舎の屋上には花の鉢植えがいっぱいあるみたい。
そこでお昼ご飯を食べてる生徒も何人か見えた。
そういえば、幸村くんが美化委員は屋上庭園の水やりも仕事だって言ってたかも。
たぶん、あれのことだよね。
今度見に来てって言われてたし、また今度いこーっと。
とりあえず、いまはご飯ご飯♪
春のやわらかい日差しと、さわやかな風につつまれて、私は適当に段差になっているところに腰をおろす。
そして、持って来ていたポケモンパンを袋から取り出す。
今日はなんのシールがでるかな〜v
できればライチューさまで!
お願いします!!
私の祈りもむなしく、袋の中からひょっこりでてきたのは、ソーナンスくん。
キミとはほんとによく会うね〜。
もう10枚はあるだろうな、うん。
アメリカ行く前から集めてたけど、日本に帰ってきてからも、もう3枚目だし。
まだ1ヶ月半くらいしか経ってないのにな〜
てことは、2週間に1回くらい会ってるってことだよね?
ポケモンシールなんて何百枚もあるのに、すごい確率・・・
パンを食べ終わったら急激に眠くなってきたので、横になれる場所を探す。
でも、ベンチとかないし、さすがに地べたには寝転べない。
あ、そういえば・・・
私はいったん屋上をでて、階段を下り、山積みにされているダンボールと壁のすきまから、破れたブルーシートをひっぱりだす。
それを持ってふたたび屋上へ戻り、シートのほこりを取ってから地面に広げる。
よし、これで寝れるぞ。
何度か折ってちょうどいい大きさに広げたシートの上にごろんと横になる。
あー、気持ちいー・・・
たまにはこーやって、外で食べるのもいいね〜
お腹もいっぱいだし、あったかいし、ちょっとお昼寝しようかなー・・・
―――――ガチャッ
私は、もうろうとする意識の中で、ドアが開く音を聞いた。
ん?誰か来たのかなー・・・
私が上体を起こしてドアのほうを見ると、そこにはひとりの男子生徒が立っていた。
あ・・・・・・
私を見つめる切れ長の目。
きりっと整った顔立ち。
そして、なんと言っても長くてきれいな銀色の髪。
後ろでゆるく結ばれたそれが、風に揺れている。
また口元のホクロがなんともいえない色気を醸し出している。
けど、この人どっかで見たことある・・・よーな気がする。
でも、思い出せないし、廊下かどっかですれ違ったくらいだろーな、きっと。
「お前さんは・・・」
目の前の少年が、ドアの前に立ったまま口を開く。
『あ、ども・・・』
私は軽く会釈をして、ふたたびごろんと横になる。
今度は、スカートがめくれないように一応手で押さえながらお昼寝の体制へ戻る。
あと少しで眠りに落ちる―――というところで予鈴が鳴った。
えー、もう5限目始まるのかー・・・
しかも次、たしか英語だよねー
サボろっかなー、サボっていいかなー、さぼっていいよねー・・・
あ、そういえば、あの人はどうするんだろう。
さっききたばっかりだし、さぼりにきたのかな・・・?
気になって寝転んだままちらっと彼の方を見ると、少し離れた段差のところに腰を下ろしていた。
彼もこちらを見ていたようで、視線があう。
「授業に出んのか?」
話しかけられると思ってなかったから、ちょっと拍子抜け。
でも、すぐに上体を起こして返事をする。
『あー、5限目英語だし。どーせ出てもひまだからサボる〜。』
「ほぅ。さすが外部生。余裕じゃのー。」
ひとめ見ただけで外部生ってわかっちゃうんだね。
そんなに立海大になじめてないのかね、私。
ってか、なにこの外部生=頭いいみたいな言い方。
『え?』
「外部生じゃから、頭ええんじゃろ?」
『え・・・・・・え?』
この方は、なにを言ってらっしゃるの?
アメリカに住んでたから英語はできるけど、その他の教科はさっぱりだよ?
特に数学なんて、さっぱりピーマンだよ?
アイアム ぴーまん!
いや、一応女だし、ぴーうーまん!
いやいや、パプリカのほうが色きれいだし、パプリ子にしようか・・・
って、そんなことより!
「お前さん、スポーツ推薦ってわけでもないじゃろ?」
『うん。一般だよ。てか、外部生って頭よくないと入れないの?』
「じゃから、外部生がこんだけ少ないんじゃろ。」
『あー、なるほど。』
いや、なるほどじゃない!
だったら何故、私は受かったんだ?
『じゃあ、なんで私受かったんだろ?自慢じゃないけど、全然勉強できないよ?』
「親のコネとかじゃないんか?」
『うちの親はコネもカネもありませんよ。』
自慢じゃないけどね。
そう胸をはって言うと、彼はクックッと笑っていた。
「お前さん、名前は?」
『んー? ー。頭がよくない外部生です。どーぞよろしくー。』
私がそういうと、彼は笑いながら「俺は仁王雅治じゃ。」といった。
仁王くんかー。
名前かっこいいなー。
ん?
"仁王"って、どっかで聞いたことある・・・・・・?
きょとんとしている私を不思議に思ったのか、仁王くんが「どうかしたか?」と聞いてくる。
『あ、いや、ううん。なんでもない。
てゆーか、屋上って特等席的な感じだったりしました?』
「いや、サボるときにここをよく使っとるだけじゃ。」
あー、じゃあ仁王くんは屋上にずっと前から来てたってことか・・・
つまり、屋上の管理人さん?
いや、大家(おおや)さん的なポジションか・・・
だったら、ただでおじゃまするわけにはいかないか。
んー、なんか持ってるかな・・・?
・・・あ、
「はい。」
どーぞ、と言ってさっき手に入れたソーナンスくんのシールを仁王くんに手渡す。
仁王くんはとりあえず渡されたから受け取ったって感じ。
頭の上に?が浮かび、"なにこれ?"って顔してる。
『今月の家賃です、仁王大家(おおや)さん。略してにおーやさんだね。
今月から屋上でお世話になります。』
主に英語の授業時間、とつけたすと仁王くんはふっと笑った。
それから、自分の手の中にあるソーナンスくんをじっと見つめる。
「これ、なんじゃ?」
『知らない?ソーナンスくん。ポケモンだよ。』
「見たことあるような気がするが・・・これをどうしろって言うんじゃ?」
『あー、ケータイの裏にでも貼って?』
『ほら、こんな感じ。』と言って、ポケットからスマホを取り出して見せた。
私のスマホケースの裏の部分にはライチューさまが貼ってある。
えへへーv
どーだ、可愛いだろーv
におーやさんは、私のスマホを見ながら微妙な顔をしている。
その顔は、これの良さがわかってないな?
よーし、こうなったら・・・
におーやさんの隣においてある彼の携帯と、彼の手の中にいたソーナンスくんをとった。
そして、思いっきりでかでかと真ん中に貼ってやった。
『はい、できたv』
これで、におーやさんは強制的にポケモン仲間だ!
におーやさんは私からケータイを受け取ると、私の自慢げな顔とソーナンスくんを交互に見た。
「・・・ぷっ、」
すると、におーやさんは急にふきだして笑いだした。
よほどおもしろいのか、お腹を抱えて大爆笑している。
『に、におーやさん・・・?』
なんで笑ってんの?
なんか私、変なことしたかな??
「お前さん、ほんまにおもしろいのぅ。」
におーやさんは、まだ笑うのをこらえてるみたいで、目にはうっすら涙がたまっている。
いやいや、笑いすぎだって。
『そーですかね?』
「"今月の"家賃ってことは、来月もまたなんかくれるんか?」
『うーん・・・・・・うん、ポケモンシールね。』
それしか持ってないしね。
そう言ったら、におーやさんは「楽しみにしてるぜよ。」と言ってまた笑っていた。
最初はクールそうな印象だったのに、話してみたら全然違った。
よくしゃべるし、よく笑う人
―――――いや、笑われてる感は否めないけども。
そのあとも2人で時間を忘れておしゃべりをした。
ってか、私が夢中でポケモンについて語ってただけなよーな気がするけど。
あとは2人で、スマホゲームのマリオカートで対決をした。
結果は、10勝10敗。
そして決着をつけるラストゲームの途中で、5限目終了のチャイムが鳴った。
『あー、ちょっとこの勝負、保留で!』
「6限目は出るんか?」
『うん。数学だからね。でなきゃ、まじでやばいやつ。』
私は6限目もサボるというにおーやさんを置いて、『じゃー、またねー』と言って屋上を出た。
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仁王くんとの出会いでしたv