ってさー、部活はどうすんの?」



体育館から教室に帰る途中、真菜子がとなりを歩く私にきいてきた。








入学して1週間が経ち、今日から体験入部週間とやらに入るらしい。





さっきの新入生オリエンテーションで、各部活の紹介ビデオみたいなのが流れてたけど、正直あんま覚えてない。



そもそも、ほぼエスカレーター式の学校なんだから、中学校でやってた部活をみんなやるんじゃないの?とか思ったけど。



部員が少なすぎて存続がかかっている部活なんかは、必死感がありありと伝わってきて。

このビデオは必要なんだなーなんて、のんきに思ってた。








『んー、決めてないけど、たぶん入んないかなー。』



バイトしたいし。


高校生になったら、バイトするって決めてたんだ〜。





「じゃあ、バレー部はどう!?楽しいよー、バレー!」


真菜子は中学校のときからバレーをしてて、春休みからもう高校のバレー部のほうに参加してたらしい。

背も高いし、運動神経良さそうだし、うまいんだろうなー。





『いや〜、バレーとかやったことないし・・・』

「1回くらい体験入部きてみなよ〜。

 見てたらやりたくなるかもしんないし!

 思わぬ才能が発見されるかもよ?」

『ないない〜。』



まーでも、真菜子がバレーしてる姿を見てみたいし、1回くらいは見に行ってみようかな。


絶対入らないけどね。











011 帰宅部希望で。








「じゃ、!また後でね!絶対来てよ!」





帰りのホームルームが終わると、真菜子は私に念を押してから廊下に飛び出していった。




いつも終わると走ってくし、よっぽど好きなんだろうなー、バレー。

ま、ちょっと見学して帰ればいっか。










さん、バレー部にするの?」





荷物をかばんにまとめていると、ふいに声をかけられた。


顔を上げると、幸村くんが私の机の前に立っている。



『ううん。今日は見学に行くだけ〜。』


一瞬止まった手をふたたび動かしながら答えた。




「へぇ、そうなんだ。

 まだ部活決めてないの?」

『んー、決めてないってゆーか・・・

 たぶん帰宅部にするかな。』

さん運動できそうだし、なにか入ればいいのに。」

『そうかな?えへへ。ありがとう。』




「まー風宮のことだから、今日は強引に誘われたんだろ。」



幸村くんと話してたら、となりの席のジャッカルが話に入ってきた。





 『あはは、確かに真菜子はいつでも強引だよね〜。

  まーでも、真菜子がバレーしてるところ見てみたいし。

  今日は体験ってか、応援しにいくの。』

ジ「んなことだろーと思ったぜ。」





幸「じゃあ、俺の応援にも来てよ。」



幸村くんがいつものようにふわりと笑う。








ん?



ちょっと待って。








幸村くんって・・・男子テニス部だよね?



"男子"だよね!?





もしかして幸村くん、私のこと女の子だと気づいてないのかな・・・?ぐすん。





ジャッカルも驚いた顔で幸村くんを見てた。






 『幸村くん、男子テニス部でしょ?

  私が見に行けるの?』



気づいてないといけないから"わ・た・し"と強調しておいた。



まあ、たしかに全国優勝するくらいうまいらしいしー、

幸村くんだけじゃなくジャッカルもブン太くんもいるしー、

見てみたい気持ちはあるんだけどね。





ジ「それなら大丈夫だぜ?

  体験入部なんか関係なく、女子ならいつでもいるしな。」

 『あー、前も言ってたね。』

ジ「今日からマネージャー希望のやつらで、もっと外野がうるさくなるとか先輩たちが朝練で愚痴ってたし。」

 『へぇ〜、大変なんだね。』


幸「さんがマネージャーになってくれたら嬉しいのにな。」

 『いやいやいや、希望者いっぱいいるんでしょ?

  私なんかいらないって。』

ジ「ま、今年はマネージャーとるかわかんねぇって言ってたけどな。

  実際部員に近づくのが目的でマネージャーになりたいやつが多いし。」

 『そ、そうなんだ。』



まじで恐るべし、恋する乙女・・・





幸「じゃ、待ってるからね。」




そう言って幸村くんは、私の返事を聞く前に教室をでていってしまった。

いや、マネージャー希望はださないぞ!





真菜子も強引だけどさ。

幸村くんもなかなか強引だよね。

なんか、逆らえない雰囲気がたまーに出てる。

最近では元部長ってのも納得できる気がしてるもんなー・・・





ジ「まあ、今日じゃなくてもいいからよ。

  見に来いよ。」

 『うん。』



部活にいくジャッカルを見送ってから、私も体育館へ向かった。

あんまり遅くなると、真菜子に起こられそうだしね。















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真菜子、すごかったな〜。



1年生なのに全然先輩に劣ってなかった。


でもほんと、楽しそうにやってたな〜。





仮入部体験は5時までで、新入生は途中でぬけることになっている。

でも、真菜子たち一部の1年生は最後まで練習に参加するらしく、私は1人で体育館から校門へ向かっていた。



んだけど・・・








うへっ、迷子だ。



ここはどこ?

Where is here?


わたしは誰?

My name is・・・


って現実逃避してる場合じゃないわ。







体育館って、どこの学校もそうだと思うけど、1番奥にあって校門から離れてるのね。

しかも立海大はかなりのマンモス校だから学校自体がほんとに大きくてさー・・・


なんて、言い訳いっても仕方ないんだけどね。



でも学校から出られないなんてダサいわー、私・・・





こーゆー困ったときは、みんなが行ってるほうに行けば良い。


これ、迷ったときの鉄則。



この鉄則に従ってふらふら歩いていくと、なんだか女の子たちの黄色い歓声に近づいていってるよーな・・・








え、なになに?

誰か有名人のライブでもあんの?





目の前に広がる光景―――


たくさん女の子たちがフェンスにかじりつくように見入っている。

そして、何秒かに1回《キャーv》という黄色い声援。






女の子たちのすき間から、かろうじてフェンスの中がテニスコートだというのがわかった。



あ、もしかしてここが―――








ここが噂のテニス部ですか。




幸村くんが応援に来てって言ってたし、ちょっと見ていこうかな〜

いや、でもこの女の子たちをかきわけて前に出るなんて無理だからー・・・





あ、いいコト思いついたv



私は、テニスコートの向かいの校舎の玄関を、頑張って探して(只今絶賛迷子中だからね)中に入り、2階にあがる。


廊下には、私と同じことを考えている人がいて、何人かが窓の外をのぞいてきゃっきゃ言っていた。



私もその人たちと同じように、廊下の窓からテニスコートを見下ろした。





お、ジャッカル発見!

やってるやってる〜


1番最初にジャッカルを見つけた。

コートで誰かとラリーをしている。



ほんと、楽しそーにやってんな〜。





あ、ブン太くんだv



ジャッカルがいるコートのとなりでは、ブン太くんがベンチに座っていた。

となりには銀色の髪の男の人がいて、その人となにかしゃべってるみたいだった。


髪が派手だから自然と目が行くね〜

てか、赤もすごいと思ったけど、銀色もすごいよね・・・




私の視線に気づいたのか、ブン太くんの顔がこっちに向いた。

そして、ベンチから立ってこっちに大きく手を振ってくる。


遠いから表情はよくわからないけど、きっといつものきらきらした笑顔だろうな。



私も少し大きめに手を振り返すと、ブン太くんは自分の番がきたのか、コートに入っていった。



ブン太くん、テニスやってるときはいつもの可愛さがぬけて、なんてゆーか・・・

うん、男前だ。

かっこいい。




あ、え・・・


えーーーーっ!?



ブン太くんの打ったボールがネットの上をするするーって転がって相手のコートに落ちた。



そんなことできんの!?

ブン太くんすごっ!!



私がびっくりしてると、ブン太くんがこっちを見てにこって笑った

・・・気がする。

遠くて表情わかんないけど。



あ、でもラリーの相手の銀髪の人にちょっと怒られてるみたい。


私に得意技見せてくれたのかな?

でもちゃんと集中してやんなきゃダメだって〜



私は自然と笑顔になって、ブン太くんを見つめていた。





「「「「「キャーッ!」」」」」



一段と大きい女の子たちの声援がきこえた。



声のした方を見ると、見覚えのある姿が―――





あ、幸村くんだ。



黄色い声援の原因は、幸村くんだったみたい。

幸村くんがコートに入ってラリーを始めた。



す、すご・・・

テニスってあんま見たことないから、よくわかんないけど、すごい上手いってことはわかる。


みんな、ほんとにすごいんだね〜。



幸村くんはラリーが終わって、ベンチに座ってタオルで汗を拭いていた。


ふと幸村くんがこっちを見て微笑んだ気がした。

《ちゃんと応援にきたよ》の意味を込めて小さく手を振る。

そしたら、軽く手を上げてこたえてくれた。





なーんか、ほかの女の子たちが夢中になるのもわかる気がするかも・・・






私は窓枠に頬杖をつきながら、ボールを追いかける彼らを見つめていた。















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すっかり遅くなっちゃったな〜





バレー部に見学に行って、(偶然だけど)テニス部の応援にもいったあと。

校門で部活が終わった真菜子にばったり会って、流れでファミレスに寄った。



学校でいつも話してるのに、話はつきないもんで・・・

不思議だよね〜





真菜個とバイバイしてからスーパーにも寄って。

今はその帰り道。










あ、あの子、今日もやってる―――







マンションの近くには大きめの公園がある。

そこにはフェンスで囲まれたストバス(ストリートバスケ)場があった。



アメリカではよくあるけど、日本にしては結構いい感じの設備。

ライトもきちんと完備してあるし、夜でもできるようになっている。



休日や夕方には、いろんな人たちが楽しそうにバスケをしているのを見かけるけど、この時間帯には、いつも同じ少年がいた。





たぶん小学校3、4年生くらいだろう。

もう10時が近いというのに、いつもひとりで、ひたすらドリブル・フェイント・シュートの流れを繰り返し練習していた。












バスケ、か・・・








ボールの跳ねる音、シュートが入ったときの快音、リズミカルな足音。



―――それらが、私の心の奥にある熱を呼び覚ます。






バスケをやめて、もう1年くらい経つのにね・・・










なおも帰る気配がない少年に昔の自分を重ねながら、私はマンションへの道を再び歩き始めた。















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なにやらワケありのちゃんです。