ガラガラガラッ―――
ドアを開けようとして伸ばした手が届く前に、ドアは勝手に開いた。
・・・あれ?自動ドアだっけ?
もちろん、そんなわけなくて。
ドアが開いたのは、教室の外から誰かが開けたからだった。
「あ・・・」
『え、』
010 お昼メン。
真っ先に目に入ってきたのは、派手な赤い色だった。
パッチリした目、整った顔立ち、人懐こそうな雰囲気、
なにより、派手な赤色の髪―――
この人、バスに遅れそうで、めっちゃ走ってた人だ。
同じ学校だったんだね〜。
こんなとこで会うなんて思わなかったよ。
目の前の少年も、私を見てびっくりしているのか、目を見開いている。
「・・・お前ら、なにやってんだ?」
後ろから、遠目でこっちの様子を見ていたジャッカルの声がした。
『あ、ごめんね、邪魔しちゃって。』
教室のドア開けたってことはC組に入りたかったってことだもんね。
私がここに立ってたらは入れないよね。
『ジャッカルー、行ってくるね〜!』
私はジャッカルのほうを振り返って、彼に向かって軽く手をふった。
ジャッカルが「おー。」と言って手を振りかえしてくれたのを見てから、赤髪の人の隣を通って廊下にでた。
「あ、ちょっと待って!」
『ん?』
食堂に向かおうと歩き出したら、後ろから引きとめられる声がした。
今のって・・・
この赤髪の人の声かな?
呼び止められたのって、私・・・だよね?
「あ、・・・いや、悪ぃ。なんでもねぇ。///」
そう言って、目の前の彼はガシガシと頭をかいた。
どうしたんだろう?
でも、C組に来たってことは、誰かに用事があったってことだよね。
誰かを呼んできてほしいのかな?
『C組の誰かに用だったの?呼ぼうか?』
「あぁ、いや、ジャッカルと飯食いにきただけだから・・・///」
『ジャッカルの友だちなんだ!』
「お、おう///」
ジ「おーい、ー。早くいかねーと人気のパン売り切れるぞー。」
教室の中からジャッカルの声がした。
『まじ!?』
チョコクロ売り切れるかな?
きのう隣のテーブルの子が食べてて、今日はそれにしようってずっと決めてたのに!
あー、売り切れてたらジャッカル食べてやろ。
色しか似てないけど、ま、仕方ないや。←
「食堂いくのか?」
急いで食堂に向かおうとしたら、赤髪くんに話かけられたので、私は視線を赤髪くんに戻す。
『うん、パン買いにいくんだv』
あぁ、チョコクロのこと考えたらよだれ出てきた。
待っててね、私のチョコクロちゃんv
すぐいくよーーー!
「あ、俺も一緒にいっていいかな?ちょうど飲み物買いにいくところだし///」
『ん?あ、うん。もちろん!』
実は、食堂まで1回しか行ったことないから、自信なかったんだよね〜。
きのうは真菜子とのおしゃべりに夢中で、行き方なんか覚えてないし。
ジャッカルの友達って言ってたから、良い人なんだろーし。
それに、バスで会って、ここでも会うってのもなんかの縁だろーし。
赤髪くんに食堂まで案内してもらいながら、2人廊下を並んで歩く。
「えーっと、さん、だよね?」
『え?うん、そうだけど・・・なんで名前知ってるの?』
名前なんて言ったっけー?
てかこの感じ、幸村くんのときもあったな・・・
「あー、さっきジャッカルに呼ばれてたじゃん?
俺は、丸井ブン太。シクヨロ☆」
『あぁ、なるほど。私は だよ。よろしくねv』
そう言ってにこっと笑うと、丸井くんは片手で顔を覆ってむこうを向いてしまった。
あれ?なんか笑われるようなこと言ったかな?
あ、もしかしてまた心の声でてたのかな・・・
いやでも、別に笑われるようなことを心の中でも言ってない・・・と思う。
って、ん?
"丸井"?
『ねー、もしかして、丸井くんってテニス部?』
真菜子が言ってたモテモテの丸井くんかな?
確かにイケメンだし!ありうる!
「え?あ、あぁ。そうだけど///」
あー、やっぱりそうだ!
幸村くんとは全く違うタイプだけど、たしかに人気あるのわかる〜v
なんか親しみやすい感じv初対面だけどv
いや、初対面じゃない、か・・・
「つーかさ、俺と前に会ったことあんの覚えてる?///」
『あ、うんうん!覚えてるよ!バスでだよね?』
「まじ!?覚えてくれてんの?」
丸井くんの表情がパッと明るくなる。
いやー、普通覚えてるよね。
イケメンが街中を猛ダッシュしてるのなんて、そーそー見る光景じゃないし。
『だってあのとき、すごい勢いで走ってたんだもん。』
「いや、あんときはまじで焦ってた。」
『うん、必死感伝わってきてた。心の中でめっちゃ応援してたもん!』
「あはは、まじ?サンキュー。」
うん、やっぱ丸井くん、すごい話しやすいかもv
しばらく2人で、あのときのことを思い出して笑ってた。
『でも、あのときは間に合って良かったね〜。』
「おう!あんときは、さんが落し物してくれて助かった〜。」
『良かった良かった〜v』
ポケモンシール、ばらまいたかいがあったね。
あのあと食べたポケモンパンに、念願のツタージャのシールが入ってて、嬉しかったなあ〜
やっぱり、良いことしたら自分に返ってくるもんだね。
「・・・もしかして、わざとバス止めてくれた?」
『あははv私、ドジだからやっちゃっただけだよ〜。』
実際、あそこまでばらまく予定なかったしね。
必死にポケモンシールを拾う私を、近くにいた小学生の男の子が冷めた目で見てたのは、ここだけの話。←
『あー、チョコクロ、売り切れてる・・・』
食堂横の購買についた私は『しゅん。』といいながらうなだれた。
「まあ、チョコクロは人気だからなー。すぐ売り切れるんだぜ?」
『そうなんだー。今度は急いでこなきゃね〜。』
すぐ売り切れるってことは、そんだけ美味しいってことだよね〜
あー、めっちゃ気になる!
次は絶対食べる!!
『まあ、今日はこれでいいや。』
そう言って私が手に取ったのは、ちぎりチョコパン。
あーあ、チョコクロないんならポケモンパン買ってくれば良かった。
いや、今日は寝坊してそんなひまはなかったな。
「さん、それだけでいいのかよ。」
『んー、じゃあもう1個買おうかな。どれがいいかな〜・・・』
「甘いもんがいいのか?」
『うん!甘いものスキだしv』
「っ///・・・これとかオススメだぜ///うまそーだろぃ?///」
丸井くんがオススメしてくれたのは、クリームがたくさん乗ったデニッシュ。
『あ、おいしそう!じゃ、それにしよーっとv』
私はお金を払ってパンを受け取って、丸井くんと一緒に自販機にいった。
『うわー、こんなにいっぱい種類あるんだねー・・・』
目の前には自動販売機が両脇にズラーッと並んでいる。
軽く20台くらいあるんじゃないかな?
さすが日本だわー。
アメリカには自動販売機自体、そんな無いしね。
「まあ、うちの学校は人数多いからなー。
さん、なんか飲みたいのある?
俺、場所だいたい把握してるし買ってくるよ。」
『ほんと!?オレンジティーあるかなあ?』
これ、1台1台見てくの大変だなーって思ってたんだよね。
丸井くんめっちゃ気が利く!
「オレンジティーはー・・・こっちこっち!」
丸井くんは小走りで先に行って、奥のほうの自販機の前で私に向かって手招きをしている。
左手側の奥から3台目、ね。
うん、覚えとこう。
お金を出そうと財布をあけたら、目の前にオレンジティーが現れた。
「どーぞ。」
顔を上げると、丸井くんがオレンジティーを渡してくれた。
『え!?くれるの?悪いよ〜。』
「いーんだよ。バスのときのお礼だし。」
『うぅー、ありがたくいただきます!私のドジに感謝だねv』
丸井くんも、私と同じオレンジティーを買って、教室に帰るために歩きだした。
真菜子も、もうさすがにプリントは終わってるよね!
それにしても、
食堂までつれてきてもらって、その上ジュースまでおごってもらっちゃって・・・
ほんと、どこまで良い人なんだよ、丸井くん!
ってゆーかさぁ・・・・・・
すっごい見られてるんですけど。
まあ、教室でたときからだったけどさ。
丸井くん目立つもんね〜。(主に頭が)
幸村くんも丸井くんも大変だなー。
人気者は辛いんだろうなー。
こんだけ常に注目されてると、ふいに変な顔とかできないよねー。(しないだろうけど)
丸井くんと話しながらそんなことを考えていたら、もう教室の前まで来てたみたい。
あー、お腹すいた!
はやくご飯食べたい!
半歩前をいっていた丸井くんが教室のドアをあけると、中から女の子たちの黄色い声が聞こえた。
登場しただけでこの声援って・・・
いやー、まじでアイドルだな。
顔写真いりのうちわとか持ってる人いてもおかしくないって。
―――ん?
丸井くん、ドアを開けてから全然教室にはいる気配がないんだけど・・・?
『まーるーいーくーん?教室入んないの?』
後ろから声をかけると、丸井くんはなにかを決意したように私のほうを振り返った。
「あのさ、さんのこと、下の名前で呼んで良い?」
真剣な顔してなにを言い出すのかと思ったら、そんなこと・・・
『うん、もちろんいいよ〜。
じゃあ、私も下の名前で呼ぼうかな、ブン太くんv』
私はニコッと笑って名前を呼んだ。
「っ///」
そしたらブン太くんは、髪の色に負けないくらい真っ赤になってた。
なんだなんだ、照れてんのかな?
言い出したのは君のほうじゃないか。
ブン太くん、見た目どおり可愛いやつだなv
けっこうシャイなんだv
『ほら、早く入んないと食べる時間なくなるよー、ブン太くんv』
私はにやにやしながら、ブン太くんの背中を押して教室に入る。
教室ではジャッカルと真菜子が話をしながら私達を待っていた。
真「あれ?、丸井と一緒に行ってたの?」
『そうだよ〜。ジュースもおごってもらった〜v』
ジ真「「は!?ブン太(丸井)がジュースを人におごった!?」」
『あはははっ、なにハモってんの?』
真「いや、だって・・・ねえ?」
ジ「ブン太がおごるとか・・・お前いつも俺におごらせてばっかじゃねーかよ。」
丸「うるせーよ、おめーら!」
真菜子もブン太くんと仲良しだったみたいで、結局4人で一緒に食べることになった。
ジ「あ、お前!から揚げ取んなよ!」
丸「いーじゃん、あと4つもあるだろぃ。」
『そーそー。もぐもぐ。あと3つもあるんだし。』
ジ「ー!お前も食ったな!?
・・・って、風宮はミニトマト取ろうとすんな!」
真「げ、バレた。」
『あははっ、ブン太くん、それは取りすぎだって・・・v』
丸「ちゃん、シーッ!」
やべー、ブン太くんと真菜子と一緒にジャッカルいじるの楽しすぎv
こんなに笑ったの久しぶりかも。
・・・ジャッカルがちょっとかわいそうな気もするけど。
いや、気のせいだな、気のせい。
ジャッカルはいじられてこそ、ジャッカルなのだから。←
この日から、ブン太くんはお昼にはよくC組に来るようになった。
改めて考えてみれば、ブン太くんとの出会いはすごい偶然だった。
私が、市役所にいくのをギリギリまで忘れていなければ、出会うこともなかっただろうし。
ブン太くんが余裕を持って、バス停にいれば、あんな印象にも残らなかっただろう。
そして、同じ高校に入学して、9クラスもある中で隣のクラスになって
―――――同時に扉の前に立った。
これって、すごいキセキだよね?
やっぱり私、ブン太くんとは縁があるのかもv
うん、良い友達になれそーだv
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ブン太との再会!