"超可愛い外部生がいる"という噂を聞いて、俺の頭には1人の女の子が浮かんでいた。





バス停で会った子・・・



俺は初めてあの子に会ってから、もう一度彼女に会いたくて、"凛太の迎え"という目的をつけて何度もあのバスに乗った。


でも、彼女とはあの日から会えていない。



もう会えねーのかよ・・・

あー、なんであんとき声かけなかったんだろ・・・


俺のバカ。










入学式の日には、もうほぼ彼女との再会をあきらめていた。





だって、しょーがねーじゃん?

名前も、住んでるところも、なーんもわかんねぇんだし。








そんなときに"超可愛い外部生がいる"なんて噂を聞いたら、期待するっつーもんだろぃ?


もしかしたら、あの子なんじゃねーかって―――










010.5 やっと会えた。by丸井








たしかにあの子だったら、このくらい噂になるだろう。

つーか、あの子だったらいいのに。





そんな期待でいっぱいの俺は、噂の外部生があの子かどーか確認したくて、一目見ようと頑張ったんだけど・・・





朝はギリギリに行ったせいでC組いく余裕なかったし。(寝坊のせい)

入学式中に見つけた後ろ姿は、バスの子に似ていた気がするけど、顔は見えなかったから、結局確信はできてないし。

昼飯のときにC組のぞいたら、どっか行っちまったあとだったし。

食べ終わった後も、ホームルーム始まるまでに委員長だけ決めとけって言われてたから、クラスの話し合いがあって見にいけなかったし。

放課後は、俺らのクラスのほうが終わるの遅くて、彼女はもう帰った後だったし。



・・・わかったのは《 》という名前だけ。





ジャッカルの話によると、顔が可愛いのは噂どおりだけど、性格もおもしろくて良いヤツらしい。


くっそー、ジャッカルのくせに。

なに俺をさしおいて仲良くなってんだよ。

まじありえねぇ。



まあ、噂の子が彼女だって決まったわけじゃねーんだけどよ。








今日こそはぜってー会ってやる!


と、今朝は決意をかためて家をでた。










朝練が終わってさっそくジャッカルと一緒にC組にいった。


幸村くんが「丸井とジャッカルはほんとに仲良しだね。」なんて言ってきたけど、勘違いしないで欲しい。

俺の目的はジャッカルじゃねぇ。

ジャッカルも俺の目的に気づいてるから「そーでもねーぜ。」って言ってた。


俺らB組は1限が移動だったから、ぎりぎりまでねばったんだけど、結局"さん"はまだ来てないらしくて会えなかった。





午前中の授業中にも考えてんのは、あの子のことばっか。

話したこともねーのに、なんで頭から離れねーんだよ。

一目惚れとかってあんま信じてなかったけど、こーゆーことなのかよ・・・?


あー、俺、重症すぎだろぃ・・・








「のぅ、丸井。」


3限目が終わって、いまだ彼女に会うことができず不機嫌になっている俺に、同じクラスの仁王が話しかけてきた。


「ん?なんだよ、仁王。」

「そんなに"噂の外部生"とやらが気になるんか?」

「げっ。なんで・・・?」


コイツにはバレたくねーんだけどな・・・

だってぜってー面白がってからかわれるし!

それに、コイツがあの子に興味を持つことは絶対避けねーと!

こいつ女癖悪いし。


まあ、俺もいいとは言えねーけど・・・

でも、胸張ってコイツよりマシだと言える!



「見てたらわかるぜよ。

 お前さんC組行きすぎじゃし、廊下もチラチラ見すぎ。」

「や、べつに外部生のことが気になってるわけじゃねーって。」

「ほぅ、そしたらなにか?

 すきあらばC組に行っとるのは、ジャッカルに会いにいっとんか?

 丸井、ソッチ系じゃったんじゃの〜。」

「おぃっ、バカ!ちげーって!」


仁王は、俺の反応を見て「クックッ」と笑っている。

あー、ほんとコイツは人をからかう天才だわ。

そんでもって、悪魔で詐欺師だし!


「そんなに気になっとるってことは、丸井から見てもそんなに可愛いんか?」

「まだ見たことはねーんだけど。

 いや、見たことはあるかもしんねーんだけどさ・・・」


仁王はわけがわかんねーって顔してんな。

まあ、言ってる俺自身もなに言ってるかわかんねーし。


「俺、ちょっと前に駅のへんで会った子がいてさー。

 その子かなーって思って確認したいだけなんだよ。」

「でも、噂のやつがその子とは限らんじゃろ?

 むしろ、違う可能性のほうが高いんじゃないんか?」

「ま、そーなんだけどさ・・・」


「噂ってのは拡がってくにつれて、尾ひれがついていくもんじゃ。

 実際はそんなに可愛くないかもしれんぜよ?」

「うーん、たしかに・・・」


仁王に冷静に言われて気がついた。


もう、俺の心の中では"=バスの子"と決めつけてたけど、確かに違う可能性のほうが高いよな・・・








3限目あとの休み時間、俺は時間があったけど、どーもC組に行く気になかった。


理由はわかってる。

確認するのが怖かったからだ。



もし、噂の外部生があの子じゃなかったら―――

もし違ったら、もうあの子とは会えないだろうな。


そう考えたら足が重くて、自分の席から立つことができなかった。










もやもやもや。

気になる。確かめたい―――でも、確かめたくない。

もやもやもやもや。

会いたい。見に行きたい―――でも、見に行きたくない。








だーっ、もう!俺らしくねぇ!

いつまでも考えてるだけじゃ、なんもわかんねーだろぃ!


よし、決めた。

昼飯のときにC組にいく。





俺がそう決意した瞬間、タイミングよく4限終わりのチャイムが鳴った。

あいさつもそこそこに、机の横にかけてある昼食のパンを持ってC組に走った。



まあB組とC組は隣だから、何秒かでC組のドアの前にたどりつけるわけで。


あの子に会えると思うと鼓動がどんどん早くなるのがわかる。



いや、でも待て。

仁王の言ってたとおり、あの子じゃない可能性のほうが高いし。

むしろあの子だったらキセキなわけで・・・



あー、なんかやっぱ、見たくないかも・・・

いや、ここにきてなに怖気づいてるんだよ、俺。

俺は王者立海大テニス部レギュラーとして全国の舞台に立ったんだ。

自信を持て、俺!





よしっ。

小さく息を吐いて、ドアに手をかけた。










ガラガラガラッ―――








「あ・・・」

『え、』










いきなり目の前に現れた彼女に、俺の心臓は驚きのあまり飛び出るかと思った。





そこには、俺の思い焦がれる、どーしても会いたかった彼女が立っていた。


ぱっちりした目、白くてきれいな肌、薄ピンクの可愛らしい唇。





間違いない。

―――間違いなく、あのときの子だ。








やっと・・・やっと、会えた///





俺は顔に熱が集中するのを感じていた。

鼓動もスピードもどんどん加速する。。





目の前の彼女も、いきなりドアの前に人が立ってててびっくりしているのか、目を見開いている。



俺のこと、覚えてくれてんのかな・・・?










「・・・お前ら、なにやってんだ?」


ふと声をした方に顔を向けると、ジャッカルと目が合った。





『あ、ごめんね、邪魔しちゃって。ジャッカルー、行ってくるね〜!』


彼女は申し訳なさそうに俺の顔を見ながら謝った。

それからジャッカルのほうを振り返って、2人で仲良く手を振り合っている。



おいおいおい。

なんでそんなにジャッカルと仲良さげなんだよ。

ジャッカルのやろー、昨日話したときは興味なさげだったろぃ・・・

なんでそんなニヤけた顔してんだよ。


彼女は、俺の隣を通って廊下にでていき、そのままどこかへ歩き出す。



「あ、ちょっと待って!」


俺は反射的に、彼女を呼び止めていた。





やっと、やっと彼女に会えたのにもうどこかへ行こうとしている。

また会えなくなるのが嫌で―――

呼び止めたのは無意識だった。





『ん?』


彼女が立ち止まって俺のほうを振り返る。





いや、待て待て。

よく考えたら隣のクラスだし、いつでも会えるじゃねーか。

なに焦ってんだ、俺・・・



「あ、・・・いや、悪ぃ。なんでもねぇ。」

『C組の誰かに用だったの?呼ぼうか?』

「あぁ、いや、ジャッカルと飯食いにきただけだから・・・」

『ジャッカルの友だちなんだ!』


「お、おう///」


はじけるような笑顔を目の前にして、俺は心臓がぎゅっとにぎられた感覚だった。



笑った顔は初めて見たな・・・

いや、まじで可愛すぎだろぃ///








「おーい、ー。早くいかねーと人気のパン売り切れるぞー。」

『まじ!?』


教室から聞こえたジャッカルの声に、彼女は焦った顔をしている。



""ってことはこの子が" "なんだよな。

ってことは、やっぱり"噂の外部生=バスの子"で合ってたってことだろぃ!

おい、仁王!ざまーみやがれ!


あー、彼女を目の前にして舞い上がりすぎてるぜ・・・

落ち着けー、俺ー、落ち着けー。




つーか、さん食堂いっちゃうのかー・・・

パン買うみたいだけど、教室にまた帰ってくるかわかんないよな・・・

せっかく会えたんだから、もっと話したい。



「あ、お、俺も一緒にいっていいかな?ちょうど飲み物買いにいくところだし///」

『うん。もちろん!』


さんがすぐにオッケーしてくれたので内心ほっとしながら廊下を並んで歩く。


断られたらどーしようかと思ったぜ。

そんなことになったら、もう立ち直れねーって。



でも、昨日までの俺にとっては、こんな光景、夢にも思ってなかっただろーな。

まさか、廊下を2人並んで歩けるなんて・・・








「えーっと、さん、だよね?」


まずは俺の名前を覚えてもらわねーとな。


『え?うん、そうだけど・・・なんで名前知ってるの?』


おっと、そりゃそーだよな。

初対面なのに名前知ってたら怪しいよな。

でも、噂で聞いて知ってたってのも、なんか嫌だろーし・・・


「あー、さっきジャッカルに呼ばれてたじゃん?

 俺は、丸井ブン太。シクヨロ☆」

『あぁ、なるほど。私は だよ。よろしくねv』


そう言って、さんは俺の顔をみてふわっと微笑んだ。



やばいって///

その笑顔、心臓に悪いって///



俺は、赤くなった顔を見られるのが恥ずかしくて、片手で顔を隠して目をそらした。


あー、普通に話もできねーとか、俺はシャイボーイか!

女の子苦手なのか!?

いや、お菓子いっぱいくれるから好きだ!!!←








『ねー、もしかして、丸井くんってテニス部?』

「え?あ、あぁ。そうだけど///」


なんで知ってんだろ。

あ、もしかして、俺のこと見て気にしてくれてたとか?

もしかして、覚えてくれてんのかな・・・?


「つーかさ、俺と前に会ったことあんの覚えてる?///」

『あ、うんうん!覚えてるよ!バスでだよね?』

「まじ!?覚えてくれてんの?」

    
やべー、めっちゃ嬉しいんだけど///

良かった〜、覚えててくれてて。

    
『だってあのとき、すごい勢いで走ってたんだもん。』

「いや、あんときはまじで焦ってた。」

『うん、必死感伝わってきてた。心の中でめっちゃ応援してたもん!』

「あはは、まじ?サンキュー。」



俺たちはあのときのことを思い出して自然に笑ってた。

あー、やっぱさんの笑顔可愛いな〜///



『でも、あのときは間に合って良かったね〜。』

「おう!あんときは、さんが落し物してくれて助かった〜。」

『良かった良かった〜v』

「・・・もしかして、わざとバス止めてくれた?」





あの日から、ずっと気になってたんだ。

初めはドジな子がいてラッキーって思ってたけど、落し物拾い終わって、俺を見たときに《良かった。》って言った気がして・・・


もしかしたら、俺のためにバスとめてくれたのかもって思っていた。



『あははv私、ドジだからやっちゃっただけだよ〜。』


いたずらっぽく笑う彼女の笑顔。

俺は、彼女の見せるひとつひとつの表情に釘付けになっていた。















食堂横の購買につくとお目当てのパンがなかったのか、さんは『しゅん。』といいながらうなだれていた。

それはまるで、耳と尻尾のたれた子犬みたいで・・・



―――抱きしめたい





って!なに考えてんだよ、俺は!///








『まあ、今日はこれでいいや。』

さん、それだけでいいのかよ。」


そんなパン1こだけじゃ、もたねーって。

さん細いし、もうちょっと太っても大丈夫だって。


『んー、じゃあもう1個買おうかな。どれがいいかな〜・・・』

「甘いもんがいいのか?」


さっきから、菓子パンばっか見てるし。


『うん!甘いものスキだしv』

「っ///・・・これとかオススメだぜ///うまそーだろぃ?///」



俺の目見て、その笑顔で"スキ"とか言うなっての・・・///

もう俺の心臓がまじもたねーって・・・








さんがパンを買うのを待って、そのあと一緒に自販機の置いてある場所にいった。





『うわー、こんなにいっぱい種類あるんだねー・・・』


さんは目の前にならぶ自動販売機の行列にびっくりしてるみたいだった。


「まあ、うちの学校は人数多いからなー。

 さん、なんか飲みたいのある?

 俺、場所だいたい把握してるし買ってくるよ。」

『ほんと!?オレンジティーあるかなあ?』

「オレンジティーはー・・・」


たしか、奥から3台目の・・・お、あったあった。


「こっちこっち!」


さんに向かって手招きをする。

彼女がきょろきょろしながらゆっくり近づいてくるのを横目に、俺はオレンジティーを1本買った。

さんが俺の隣にきて、お金を出そうと財布をあけたので、さっき買ったオレンジティーを彼女の財布の前にだした。


「どーぞ。」

『え!?くれるの?悪いよ〜。』


すごいびっくりした顔してる。

ほんとに表情豊かだな〜。

驚いた顔も可愛いし///

遠慮なんかしなくていいのに。



「いーんだよ。バスのときのお礼だし。」


俺も、さんと同じオレンジティーを買って、教室に帰るために歩きだす。

いつもは甘い炭酸を買うけど、今日は迷わずこれにした。

だって、さんが好きなもんとか気になるだろぃ?










さんといろんな話をしていたら、もう教室の前まで来てたみたいだ。



ちぇ、もう教室についちまったのかよ。

もっと2人で話したいのに・・・





仕方なく1Cの教室のドアを開けると、中にいた女子が俺を見て少し顔を赤くして騒ぎ出す。


「見て見て、ブン太くんきたよ!///」

「あ、ほんとだ〜。///」

「ジャッカルくんとご飯食べるのかな?///」

「きゃー、ブン太くんだ///」






いつもはなにも思わないけど・・・

俺もさんを見てるときは、たぶん顔赤くなってるだろーし、こんな感じなのかな・・・なんて思った。





『まーるーいーくーん?教室入んないの?』


俺がドアを開けてからいっこうに教室に入る気配がないのを不思議に思ったのか、さんが後ろから声をかけてきた。



なんかひっかかる・・・

あー、なんだろ?

クラスの女子たちの声を聞いてから、なんかひっかかってんだよなー・・・





あ、そっか。

わかった。

他の女子たちが俺のことを下の名前で呼ぶのに、さんは名字で呼んでるからだ。


でも、いきなり俺のこと下の名前で呼んでってのも言えねー・・・

てか、俺がさんのことを下の名前で呼びたい!








俺は、小さく深呼吸して気合を入れ、さんのほうを振り返った。



「あのさ、さんのこと、下の名前で呼んで良い?」

『うん、もちろんいいよ〜。

 じゃあ、私も下の名前で呼ぼうかな、ブン太くんv』


さんはニコッと笑って俺の名前を呼んだ。





―――――っ///



少し落ち着いていた熱も、一気に上昇する。











下の名前なんて、女の子に数え切れないくらい呼ばれてきた。

口にする人が違うだけで、こんなにも心が乱されるなんて・・・





『ほら、早く入んないと食べる時間なくなるよー、ブン太くんv』



さんは固まっている俺の背中を押しながら教室に入った。


彼女の手が触れている背中が熱を持ちはじめる。

あー、このままいくと俺、沸騰するかも―――















俺は昔から女の子に困ったことはなかった。

俺から行かなくても向こうから来てくれるし。

ましてや俺から行ったら、絶対こたえてくれたし。


お菓子をくれる人だったら誰でも好きだったし、これからもそうだと思っていた。





でも、彼女―――ちゃんは、そーゆーのじゃない。

他の子とは全然違う。





ちゃんのちょっとした仕草、表情、言葉で俺の心は乱される。



ちゃんを喜ばせたい。

喜んだ顔が見たい。



こんなふうに思ったのは初めてで―――








俺、ちゃんのことが本当に好きみたいだ。///















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再会できて良かったね、ブン太v