男子のあいだでは、"超美人な外部生がいる"という噂はもうみんな知っていた。
下駄箱でクラスを確認するときに彼女を見たやつらが興奮して騒いでいたから
いやでも耳に入るだけなんだけどね。
006.5 噂の外部生。by幸村
でも、これだけ噂になるって、どんな子なんだろうね。
俺は下駄箱でクラス表を確認しながら、あちこちで噂されている女の子に少し興味が沸いてきた。
「あ、幸村く〜んvおはようv」
「おはよ〜v」
「おはよう。」
そのへんにいた女の子たちが、俺を見て駆け寄ってきてあいさつをする。
去年、クラスが一緒だった子たちだ。
「幸村くん、C組だったよ〜v」
「でも私たちEとGで、クラス離れちゃったよ〜。
今年も幸村くんと一緒が良かったのになぁ〜・・・」
「そうなんだ。それは残念だね。」
女の子たちに本格的に捕まりそうになったので、C組の欄に名前を確認すると、足早に教室に向かった。
C組、か・・・
テニス部誰かいたかな?
急いでたから、自分の名前しか見れなかったな・・・
あ、そういえば噂の子もたしかC組って言ってたかな?
教室に入ると、なんだか騒がしくて、声の発信源に目を向けた。
すると、岡崎と風宮がある座席の前でなにか言い争ってるみたいだった。
あの2人、同じクラスなのか。
あいかわらず仲良しだね。
俺は、とりあえず自分の席を確認しようと黒板に向かった。
えーっと、廊下側から2列目の真ん中か・・・
「いいじゃねーかよ。俺たちだって仲良くなりたいし。」
「オカタクみたいなのに話しかけられたら、野蛮すぎて怖がっちゃうわよ!」
「あんだと!?ナマコみてーなやつに話しかけられたほうがびびるっつーの!」
座席表をみていると、岡崎たちの痴話げんかの内容が聞こえてくる。
岡崎たちが騒いでる座席ってもしかして・・・
俺はその座席の名前を確認した。
≪ ≫
俺は黒板の座席表から、岡崎たちのほうへ視線をうつした。
そのとき、岡崎と風宮の間から、チラッと彼女の困ったような苦笑いの表情が見えた。
一瞬しか見えなかったけど、噂どおり可愛い感じの子だったのはわかった。
それにしても、岡崎と風宮は・・・
あの子、外部からきて緊張してるはずなのに、いきなり目の前でけんか始まってびっくりしてるだろうね。
俺たちにとってはよく見る光景なんだけど、初めてだったら誰でも困るよね。
かわいそうだし、ちょっと助けてあげようか。
「さん。」
俺はさんの座席に近づいて言った。
風宮が俺に気が付いて、こっちを向いたので、さんの顔をはっきり見ることができた。
さんも、少し驚いた顔で俺のほうを見ている。
うん、確かに噂どおり可愛い。
「さん、ちょっといいかな?」
そう言って俺は、さんがイスから立ち上がったのを確認してから、廊下のほうに歩いていった。
廊下にはあまり人がおらず、教室と比べるとかなり静かだった。
それでも、廊下にいた少数の女の子グループは例外なく俺たちを見ていた。
そして俺は、まじまじと彼女の顔を見つめた。
大きな目が印象的な可愛らしい顔立ち。
確かに、今まで見てきた女の子の中で1番可愛いかもしれない。
『あ、あのー、なにか用かな?』
彼女が気まずそうに言った。
彼女は、俺よりも周りの女の子からの視線を気にしてるみたいだった。
こういうシチュエーションだったら、普通の女の子は俺と2人きりになったこと喜んでくれるんだけどな・・・
ま、いつもそういう変な勘違いされて困るんだけどね。
「いや、特に用はないんだけどね。」
困ってたから助けた、なんて恩着せがましいことは言わない。
思わせぶりに聞こえるといけないから。
さんは俺の返事を聞いて、頭の上に?マークがいっぱい飛んでいた。
用がないのに廊下につれてこられたことを不思議に思っているんだろう。
あいつらと離れるために廊下に出ただけで、実際用事はないしね。でも、
「ちょっと話してみたかったんだ。」
明らかに、他の女の子たちとは違う俺への態度。
ちやほやされるのは、もういい加減うんざりしていた。
こういう風に普通に接してくれる女の子と話すのは久しぶりかもしれない。
『ありがとう。』
彼女は一瞬なにか考えこんだ後、ニコッと笑って俺のほうを見た。
今までの不思議そうな顔や驚いた顔から一転して、ほんとうにきれいな笑顔だった。
俺は不覚にも一瞬、その笑顔に見とれてしまった。
けど、すぐに我に返った俺は、さんのいきなりの感謝の言葉を疑問に思った。
―――――もしかして、困ってるさんを助けたことのお礼?
わかってなさそうだったのに・・・気づいてたの?
「なにかお礼を言われるようなこと、したかな?」
『ううん。私が言いたかっただけ。』
―――――あぁ、完全に気づいてる。
こういう言い方をする子は嫌いじゃない。
女の子はなんでも言葉にしたがるし、同じように他人からもなんでも言葉で欲しがる。
言葉にしなきゃ伝わらないことがあるのはわかる。
でも、内容を直接言葉であらわさなくても、お互いにわかっている、みたいなほうが俺は好きだ。
だって、心がつながってるみたいで、なんか素敵じゃない?
≪ ≫ちゃんか・・・
顔が可愛いのはもちろんだけど、中身も他の女の子たちとは全然違う
―――――噂以上に魅力的だね。
『そういえば、さっき教室で私の名前呼んだよね?
なんで知ってたの?』
「あぁ、座席表を見ただけだよ。」
『あ、なるほど。』
さんは、俺に対する警戒がとれたのか、ころころ表情が変わるようになった。
思い出した顔、不思議そうな顔、納得した顔・・・感情が顔によく表れてて、子供みたいだ。
素直でほんとうに可愛らしいよ。
彼女がふと廊下の先に目線を走らせた。
目線の先を追うと、先生たちがこっちに歩いてきてるのが見えた。
そろそろ教室に戻ったほうがよさそうだね。
俺は視線を彼女に戻すと、ばっちり目が合った。
アイコンタクト、といえば大げさだけど、きっと彼女も同じことを考えているような気がして、なにも言わずに教室のドアを開けた。
それを見た彼女は、少し驚いた表情をしていた。
『心の声、でてた?』
「え?」
俺のきょとんとした顔を見て、彼女は急いで自分の席に帰っていった。
さんの"しまった"という表情がおもしろくて、ゆるむ口元を隠しながら、俺も自分の席に戻る。
ほんとはもっと話をして、君のことを知りたいけど。
クラスが一緒なんだから、ゆっくり近づいていければいい。
楽しい1年になりそうだ。
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幸村視点でしたv
これからどんどんテニス部出てきます!